イノベーティブ・スタートアップ 2020.03.05

2019年誕生のインシュアテックユニコーン企業全5社を解剖!急成長の理由とは?~前編~

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2019年は従来の保険会社にとって脅威の年だったと言えます。

大手コンサルティングファームのウィリス・タワーズワトソンによると、2019年はグローバルで約6500億円(約$6.3B)もの投資がインシュアテック分野になされ、過去最高の投資年になりました。また、グローバルで10社あるインシュアテックのユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上に到達した企業)のうち、なんと半数の5社が新たに誕生した年でもありました。それぞれの企業価値が適正なのか?という意見はあるものの、急速に成長したそれら企業に対する世間からの期待や興味は高く、インシュアテック業界の勝ち組が徐々に頭角を表した印象です。同時に、従来保険会社にとっても真剣に彼らとの付き合い方を考えていかねばならなくなったと言ってよいでしょう。

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<ウィリス・タワーズワトソン社ホームページより引用>

今回は、前・後編にわたりそんな2019年に誕生した新生インシュアテックユニコーン企業5社に焦点を当て、各社の特徴をご紹介するとともに、彼らが注目されている共通点を筆者なりに考察したいと思います。インシュアテック業界では既に有名になっている5社ですが、2020年以降も引き続き注目すべきスタートアップ企業として押さえておきたいと思います。

わずか5社の企業価値がまもなくトータルで1兆円に

今回ご紹介するインシュアテックユニコーン企業は、Bright Health、Next Insurance、We Fox Group、Hippo Insurance、Lemonadeの5社になりますが、まずは各社の資金調達状況を整理しておきたいと思います。

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<Pitchbookデータベースに基づく筆者まとめ>

上記をご覧頂けると分かる通り、2019年度のみで5社の資金調達額は日本円にして約1600億円($1.52B)に及びます。冒頭で記載した通り、2019年度グローバル全体では約6500億円の投資がなされましたので、わずか5社のみで全体の1/4~1/3を占めたことになります。また、企業価値は$8.56Bとなり、日本円で間もなく1兆円に到達する勢いです。いずれも膨大な金額であることが一目瞭然です。

ここからはなぜ彼らがユニコーンに成長できたのか、各社の特徴を具体的に見ていきたいと思います。前編では、主に健康保険を取り扱うBright Health、損害保険を取り扱うNext Insuranceの2社を取り上げます。

Bright Health

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<Bright Health社ホームページより引用>

2015年に米ミネソタ州ミネアポリスに設立された同社は、個人、家族、メディケア向け健康保険を取扱い、幅広い年齢層をカバーできることから一生涯のサポートをうたっています。メディケアとは、65才以上の高齢者と障害者のための医療保険で、国が運営する制度です。加入条件はありますが、サービス内容として入院をカバーしたり、外来受診できたりといくつかの段階に分類されています。

Bright Healthが注目されている理由には創設者が米医療保険最大手United Healcare(全世界1億人以上にヘルスケアサービスを提供している、Fortune500のトップ6企業)の元CEOであることのほか、地元に根差したパーソナライズ・ローカライズサービスがあります。

アメリカで医療機関にお世話になる際は、「ネットワーク」という考え方が非常に重要です。自分が持っている健康保険が加入している「ネットワーク」での医療サービスを受けない限り保険が下りません。例えば近所にすごく評判のお医者さんがいるにもかかわらず、自分の保険がそのお医者さんが加入している「ネットワーク」に加入していないために利用できなかったり、症状によっては色々なエリアを点々として受診しないといけなくなったりと、ある意味融通が利かない仕組みと言えます。

Bright Healthでは各エリアや都市毎にケアパートナー1社(医療機関や薬局などの医療ネットワーク)と独占的に契約します。その後両社で健康保険商品をブランド化し、そのエリア、都市に適した独自医療サービスを提供するという仕組みです。契約先のケアパートナーとその地にローカライズされた狭い医療ネットワークを構築しておくことで、加入者に寄り添ったケアが実現するのです。

また、Bright HealthはAIやMachine Learningを活用したデータ分析プラットフォームを活用することで、顧客データ、例えば医療履歴などから顧客の健康状態を把握します。さまざまなデータを駆使して、ケアパートナーと病気予防につながる医療コンシェルジュとしてのサービスも充実させることによって、会員が支払う保険料も下げています。

Next Insurance

Next insurance

<Next Insurance社ホームページより引用>

2016年に米カリフォルニア州パロアルトに設立された同社は、個人事業主や中小ビジネス向けのオンライン損害保険を取り扱っています。

ここでいう個人事業主や中小ビジネスとは、例えば、スポーツジムや工事業者(水道や屋根など)などを指します。米国では、約3000万社以上ある中小ビジネス規模が全米でビジネスの9割以上を占めているのですが、実は1年以上営業している中小ビジネスオーナーの約4割が保険に入っていません。

理由は、保険商品が非常に複雑かつ高価であり、彼らに最適な商品や料金体系が存在しないためです。保険商品が複雑で高価というのは、市販の保険商品に自分が本当にカバーして欲しい保険内容が含まれているのかどうかが分かりづらい、もしくは必要以上の内容がカバーされている為に高価になっているということです。そのため、個人事業主や中小ビジネスオーナーは、各業種に応じた必要最低限かつ安価な保険を求めています。

Next Insuranceではこの課題に対し、1000を超える専門業種に合った最適な保険をAIやMachine Learningを駆使したプラットフォームでスピーディに提案し、査定から価格設定、契約、クレーム処理までをオンラインで処理します。既に全米50州に展開されており、約7万人のユーザに使われています。

またアメリカでは一般的にCOI(Certification of Insurance、いわゆる保険証)を取得するのに約$7~15の手数料がかかり、発行にも1~2週間かかるところを、24時間365日、オンラインで即座にかつ無料で取得できるようにしたことも加入者にはうれしいメリットです。

新たにマーケティング責任者にFitbitの元Executiveを、プロダクト責任者にYelpの元Executiveを採用したこともビジネスをさらに加速させるポイントになりそうです。

まとめ

前編では、2019年がインシュアテック業界で過去一番の大きな投資が行われた年であり、従来の保険会社にとって脅威の年になったということをお伝えしました。今回ご紹介した2社は保険分野は異なりますが、それぞれほんの4~5年程度で急成長を果たしたスタートアップです。保険分野に携わる企業のみなさま、もしくはこれから保険分野と密接に関わる予定のみなさまにとって、多少なりとも参考になる企業の特徴がお伝えできていればと思います。後編では、残り3社であるwefox、Hippo Insuracen、Lemonadeを取り上げ、ユニコーン企業5社急成長の理由を少し深堀したいと思います。

関連ブログ:2019年誕生のインシュアテックユニコーン企業全5社を解剖!急成長の理由とは?~後編~

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この記事を書いた人

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Nobuyuki Komatsu

2004年、日商エレクトロニクス入社。JuniperやBrocade、Viptelaなどネットワークを軸としたインフラ製品の事業推進や新規ベンダー立ち上げに関与。2017年10月よりサンノゼ赴任。シリコンバレーで得られる最新の情報を発信しつつ、新たなビジネスモデル開発に向け日々奮闘中。2020年現在の担当領域は、クラウドやフィンテック、インシュアテックなど。バスケットボールとキャンプが趣味。

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