シリコンバレーテクノロジートレンド 2019.10.25

【Gartner IT Symposium/Xpo 2019 速報】テクウィリブリアム到達を目指すリーダーに向けた4つの提言

gartner it symposium/xpo

10月20日から24日の5日間、フロリダ州オーランドにて『Gartner IT Symposium/Xpo 2019』が開催された。日本でも毎年11月に開催される同イベントだが、今回はその親玉の存在にあたる。世界各国より9,000名を超えるCIOをはじめとするITエグゼクティブから最重要視され注目を浴びているカンファレンスだ。

いみじくも今週は、世界で初めてインターネットが開通して50年という節目の週になる。これまでのテクノロジー発展により世界は大きく変わってきたが、これからの5年は、さらなるスピードでビジネス環境や人間社会に劇的な変化が起こるに違いない。

今年のテーマは「Leading the Digital Society(デジタル社会をリードする)」。今やテクノロジーは人々の生活や社会のあらゆる側面に浸透している中、デジタルテクノロジー前提でのビジネスのあるべき姿、さらにはこの社会をどう変えられるかという想いが込められている。

不確実性が高まる昨今のビジネス環境において、GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)+BAT(Baidu, Alibaba, Tencent)といったデジタル・ジャイアンツが猛烈な勢いで業界を超えたビジネスに参入している中、企業は既存ビジネスにおける大きな転機を迎えている。このような状況の下、企業はどのように戦略的にビジネス転換を加速していけばよいのだろうか。その答えが今回紹介された新たなコンセプト、TechQuilibrium(テクウィリブリアム)だ。(追記:ガートナージャパンによれば、これを「デジタル化の均衡点」という表現を使っている。)

ガートナーが提唱するTechQuilibrium(デジタル化の均衡点)とは

“この転機に勝利する鍵は、TechQuilibrium(デジタル化の均衡点)を見つけ出すことだ“

初日のオープニング基調講演では「Winning in the Turns:Leadership in a Digital Society」と題して、ガートナーのVice President、バル・スライバー氏が登壇し、デジタル社会でリードするための新たなコンセプト、TechQuilibrium(テクウィリブリアム)を提唱した。

TechQuilibriumテクウィリブリアムという新たなコンセプトを提唱するバル・スライバー氏

TechQuilibriumとは、Technology(テクノロジー)とEquilibrium(バランス・均衡)を合わせたガートナーによる造語で、既存ビジネスとデジタル技術の融合によって生み出されるデジタル化の度合いを定義する、技術的な均衡点(バランスポイント)を表すコンセプトである。

日本では馴染みのない用語だが、4年前にガートナーが提唱したバイモーダルの進化版コンセプトといったらニュアンスは伝わりやすいかもしれない。モード1(コスト削減や効率化を重視するトラディショナルIT)、モード2(柔軟性や俊敏性が求められるIT)の2つの流儀をうまく使い分けて推進していこうというものだった。

具体的には、ITリーダーは経営陣と深く連携して既存ビジネスとデジタルビジネスの間で均衡を取りながら顧客への価値であるバリュープロポジションを設計(デザイン)していく。その過程において既存ビジネスとデジタルのちょうど良い関係性(度合い)、つまりバランスポイントに到達した時にテクウィリブリアムに到達したと言えるそうだ。このバランスポイントは、あらゆる業界の個々の企業によって異なっており、同じ業界だからといって同じバランスポイントという訳ではない。

テクウィリブリアムを考える上でのデジタル戦略には大きく2つの方向があり、1つは社内のオペレーションをデジタル化すること、もう1つはお客様に向けての価値(バリュープロポジション)の創出にデジタルを活用していく方向だ。

valueproposition 社内オペレーションとバリュープロポジションの2つの方向性

同社のCIO調査によれば、ワークプレイスや業務プロセス、サプライチェーンなどの社内オペレーションへのデジタル適用は、39%の企業が完了し、商品やサービスなど顧客へ価値を届けるバリュープロポジションについては20%に留まっているとのこと。しかしながら、先進企業では、社内オペレーションは半分以上がデジタル化され、バリュープロポジションは3分の1が完了しているという。業界別にみても企業におけるテクウィリブリアムは様々で、メディア業界が圧倒的に進んでいて、公共機関やヘルスケアが遅れているようだ。

TechQuilibrium2

業界毎に異なるテクウィリブリアムの状況

各領域の展望とリーダーが考えるべきこと

自社のテクウィリブリアムがどこにあって、今後どこへ向かっていくのか。これを見つけるのは簡単なことではなく、テクウィリブリアムへの到達は平均して7年程度の時間が必要だという。

ではそんなテクウィリブリアム到達のために押さえておくべき領域と、ITリーダーが考えるべきことは何か。今回、①Enterprise Decision-making(意思決定)②Leadership(リーダーシップ)③Customer Experience(カスタマーエクスペリエンス)④Digital Society(デジタル社会)の4つの領域における提言がDistinguished VP & Fellowのティナ・ヌーノ氏とドン・シェイベンリフ氏から紹介された。

1. Enterprise Decision-making(意思決定)

“2022年までに40%の従業員は意思決定する際にAIをエージェントとして活用するだろう”

デジタル社会において人間によるリーダーシップを維持することは難しくなり、意思決定はAIなどのテクノロジーによって自動化されることになる。特に複雑なデータを使った意思決定にはAIと人間の協業が求められ、重いデータプロセスはAIが実施して、人間がそれを補強する役割を担うことになるという。ITリーダーは、人間の意思決定とAIによる意思決定の間で上手くバランスをとり、意思決定におけるデジタル化の均衡点を見つけ出す必要がある。

Gartner predicts

40%の従業員の意思決定にはAIが使われる

2. Leadership(リーダーシップ)

”2020年、67%の経営陣は、デジタルテクノロジーによる戦略的破壊をビジネス最優先課題とするだろう。

デジタルテクノロジーによる戦略的破壊は、人材獲得や規制対応よりも上位の課題に位置付けられておりITリーダーには追い風である。しかしながら、このような状況にもかかわらず、ITリーダーの60%以上は自身は保守的でビジネスに絡んでいないと自己評価しているという。

今後、例えば商品開発においてCMO(Chief Marketing Officer)とCIOがタッグを組んで一緒に作り上げるなど、ITリーダーはもっとオフェンシブに方向転換し、攻めのリーダシップポジションを取っていくことが求められている。実行する上では、ビジネス、テクノロジー、オペレーションと攻守に優れた融合チームを結成する。加えて、経営陣を巻き込んだ議論では、売上、コスト、リスクの3つの観点で共有していくべきだという。その際、「A商品の売上は10倍」「セールスプロセスの生産性が50%向上」「93%の監査リスクを削減したなど」など数値に落としてわかりやすく共有していくことが求められるだろう。

CIOs must go on offence CIOに対して「前に出ろ!」と警鐘を鳴らすティナ・ヌーノ氏

3. Customer Experience(カスタマーエクスペリエンス)

“2021年までに、33%の企業はマルチエクスペリエンスのプラットフォームを持つことになるだろう。“

IoTやウェラブルデバイスの発展により、服、時計、冷蔵庫などあらゆるものが顧客と繋がっている今日、相反する物事を同時に求める「わがまま」な顧客、The Everything Customer(すべてを求める顧客)が生まれている。この傾向は、テクノロジの普及によりますます強まりつつある。例えば、モバイルアプリに加えて、Slackやスマートスピーカーなどあらゆるアプリやデバイスからやり取りしたい、しかも手間なく使える操作性が欲しいなどのことの両立を求めている。

このような顧客からの要求とのギャップを埋めるためには、顧客接点でのカスタマーエクスペリエンスは、マルチエクスペリエンス・プラットフォームにならなければいけないという。つまり、顧客とのエクスペリエンスを注意深く観察し、いつでもどこでもEverything
Customerを喜ばせる必要がある。

ここでは事例として、顧客接点を数多く持つことで顧客満足度を向上しているユナイテッド航空やドミノピザが紹介された。ユナイティッド航空は、電話、Web、タブレット、モバイル、スマートウォッチ、ラウンジ・キオスク、Google Home、Amazon Alexa、チャットボット、Twitterの10個ものタッチポイントを保有し、ドミノピザに至っては、対面、電話、Web、スマートウォッチ、SMS、Google Home、Amazon Alexa、Voice、タブレット、スマートTV、自動車、メッセンジャー、Twitter、Slack、Zero Clickと15個もある。最後のZero Clickは、独自に開発したモバイルアプリで、事前にお気に入りのピザを登録しておくと、アプリを起動しただけで注文ができる仕組みとなっている。

domino pizza 15のカスタマータッチポイントを持つドミノピザを絶賛するドン・シェイベンリフ氏(Distinguished VP Analyst)

4. Digital Society(デジタル社会)

“70%のステークホルダは、企業が自社ビジネスに関わる社会問題への立場を公言することを期待している。”

デジタル社会は、「人、モノ、企業との間のすべてのやり取りの集合体」という意味で、急速に広がりつつある。デジタル社会は、企業にとってチャンスでもあると同時に、サイバーセキュリティやAIバイアス(AIの誤動作)による脅威に対する企業の保護も重要となってくる。企業の存続や成長のためには、これまでのベストプラクティスや古いルールは意味をなさず、新しいベストプラクティスとルールが必要となる。例えば、データの価値と責任ある利用のバランスを取るためには、①確固たる情報ガバナンス、②共有のメリットを感じられるような真の価値提供、③信頼を得るための透明性とコントロールの向上の3つのことが必要となるという。

また、あらゆる業界には大きな社会問題があり、その問題への解決がビジネスチャンスに繋がり得ることにも目を向ける必要がある。それは単にチャリティ団体に寄付金を献上したりボランティア活動をするという意味ではなく、デジタル社会をより良い状況に改善するようなビジネスを創出することを意味している。デジタル社会への企業の関わりは転機を勝機に変える重要な機会と捉えることができる。

まとめ

今回参加した「Gartner IT Symposium/Xpo」では、参加者の8割以上がエグゼクティブなので情報交換がとても有意義だった。企業経営する上でのデジタルへの関わり方や企業文化の変革など、日本にいたら普段聞けない話を気軽にしてくれるのもありがたい。コンテンツもトップアナリストが登壇しているだけあって、詳細な分析と経験が裏打ちする提言には説得力がある。

しかし、最後にひとこと申し上げたい。TechQuilibriumは日本人には馴染まないと思う。やはり言いづらい。11月の日本開催でガートナージャパンがどう訳すのか興味深いところだ。(追記:11月12日、ガートナージャパンは、TechQuilibriumを「デジタル化の均衡点」と訳している。)

Nissho Electronics USAでは、お客様のビジネスを共創&サポートすることを目指し最新のテクノロジートレンド、ユーザートレンドを日々調査しております。是非お気軽にお問い合わせください。弊社へのお問い合わせはこちらのフォームよりお気軽にご連絡ください。

この記事を書いた人

Mizuki (ENO) Enomoto

この記事を書いた人

Mizuki (ENO) Enomoto

1997年、日商エレクトロニクス入社。エンタープライズ領域の顧客を中心に、Nutanix、Microsoft Azureなどのローンチに携わる他、国内クラウド・ベンチャーへの出資を担当。 2008年-11年、ボストン、サンノゼ駐在時にクラウドの黎明期を肌で感じて以来、スタートアップ企業のアントレプレナーシップとパッションに魅了されている。2019年5月、2回目となる駐在でNissho USA Presidentに就任し、セレンディピティを信じながら日々奮闘中。趣味は、ファミリーキャンプとゴルフ。

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