▶︎ 2020年速報はこちら:【Gartner IT Symposium/Xpo 2020速報】2021年戦略的テクノロジートレンドの要点を一挙に公開!
日本開催に先立ち10月にオーランドで開催された「Gartner IT Symposium/Xpo 2019」。基調講演に続いて、毎年恒例となる「2020年戦略的テクノロジートレンドのトップ10」が発表された。(基調講演のサマリーはこちら:「テクウィリブリアム(デジタル化の均衡点)達成を目指すリーダに向けた4つの提言)
ガートナーの定義する戦略的テクノロジートレンドとは、「テクノロジーが出現したばかりの状態を脱し、大きな破壊的可能性を持つようになったトレンド」や、「今後5年間で重要な転換点に達する、変動性が高く急成長しているトレンド」だ。今回は2回にわたって、この戦略的テクノロジートレンドを取り上げる。前編ではトレンド1~5について解説したい。
「人」がテクノロジーの中心に
今回のトップ10トレンドは、「People Centric Smart Space(人を中心としたスマートスペース)」というアイディアをもとに構成されていた。これは、テクノロジー戦略の中心に人(従業員、顧客、パートナー、社会)を位置づけ、各々のテクノロジーが、これらの人々にどのような影響を与えているのかを優先的に考えるということを意味している。
またスマートスペースとは、人とテクノロジーがオープンに繋がり、相互作用する物理的環境のエコシステムを指す。これにより、人、プロセス、サービスやモノなど複数の要素がスマートスペースで組み合わさり、よりインタラクティブで自動化されたエクスペリエンスを創出するという考え方だ。
このアプローチにおいて重要な点として、登壇したガートナーのVice President、ブライアン・バーク氏は、「テクノロジースタックを構築してから潜在的なアプリケーションを探索するのではなく、最初にビジネスと人の文脈を考えることが重要」と提唱した。それでは、2020年に注目すべき戦略的テクノロジートレンドのトップを順番に見ていこう。
トレンド1 :ハイパーオートメーション(Hyperautomation)
”ハイパーオートメーションのゴールは、自動化できるものをすべて自動化すること。No1のユースケースは、AIによるプロセス自動化だ”
ハイパーオートメーションとは、AIやML(機械学習)などを使って人間の作業を自動化することを指す。RPA(Robotic Process Automation)が、このトレンドを創り上げてきたが、単一のツールで人間の作業を置き換えることはできないため、iBPMS(インテリジェント・ビジネス管理ソフトウェア)やAIなどのツールを組み合わせて実現していくことになる。自動化には、発見、分析、設計、自動化、計測、モニタリング、再評価のステップが含まれる。
ハイパーオートメーションを実現するまでの道筋には、RPAによるタスク自動化から始まり、iBPMSやAIによるプロセス自動化、そしてDigital Opsによるビジネスオペレーションと、複数のステップが存在する。
また、ハイパーオートメーションにより組織のデジタルツイン(Digital Twin Organization)も作成できる。デジタルツインとは、フィジカル空間の情報をリアルタイムにサイバー空間にコピーし、サイバー空間でフィジカル空間を再現することで、主に製造業の工場ラインなどで注目を浴びている。それがハイパーオートメーションにより、業務プロセスをデジタル化することであらゆる業務を視覚化することが可能になるという。
トレンド2:マルチ・エクスペリエンス(Multiexperience)
“2021年までに、少なくとも3分の1の企業は、モバイル、Web、スマートスピーカー、AR(拡張現実)などのマルチエクスペリエンス開発プラットフォームを持つようになるだろう。”
マルチ・エクスペリエンスとは、テクノロジーに精通した人々を、人間に精通したテクノロジーに置き換えることを指す。これまでのコンピュータの従来の考え方は、単一のタッチポイントを提供することであった。それがウェラブルデバイスや高度なセンサーによりマルチタッチポイントのインターフェースを可能にしている。例えば、前回紹介したドミノピザでは15種類のタッチポイントを活用して、自動運転での宅配、ピザ追跡システム、スマートスピーカーでの会話など、アプリベースの注文を超えるエクスペリエンスを生み出している。
将来的にこのマルチ・エクスペリエンスの環境は、個別のデバイスではなく周辺環境が「コンピュータ」と見なされるアンビエント・マルチエクスペリエンス(環境に溶け込んだ体験)を作り出すと予想されている。
トレンド3:専門性の民主化(Democratization of Expertise)
“2022年までに、意思決定にAIを使用している組織の30%は、効果的かつ倫理的な意思決定に対する最大のリスクとして、シャドーAIと戦うことになるだろう。”
民主化とは、従業員が、コストを掛けて特別なトレーニングを受けなくても専門知識を入手できるようになることを指す。MLやアプリケーション開発などテクノロジーの民主化、セールスプロセスや経済分析などのビジネス分野の専門知識の民主化などがあげられる。例えば、民主化が実現すると、開発者はデータサイエンティストのスキルがなくてもデータモデルを作ることができ、コードと自動テストツールによってAIドリブンの開発をすることができるようになる。
今後は、2023年までに民主化のトレンドは次の4つの領域で拡大していくと予測されている。
- データと分析の民主化(ツールは、データサイエンティストから開発者コミュニティに拡大)
- アプリケーション開発の民主化(カスタム開発でAIツールを活用)
- 設計の民主化(ローコード、ノーコードによるアプリ開発の自動化)
- 知識の民主化(非IT担当者がシステムにアクセスすることで、専門スキルの活用と応用)
トレンド4:人間の拡張(Human Augmentation)
“2025年までに、企業の40%が、人間拡張の技術と手法を採用することにより、人間のための設計から人間自身の設計にシフトするだろう。“
人間拡張は、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)やAIなどのテクノロジーの力で、人間の能力を強化、向上させることを指す。そのなかには身体能力を向上させるフィジカル拡張と認知能力を向上させるコグニティブ拡張がある。
フィジカル拡張は、感覚(視覚、聴覚、知覚)、付属器機能拡張、脳拡張、遺伝子拡張の4つに分けることができ、AR(拡張現実)機能があるスマートグラスやコンタクトレンズ、POS支払いテクノロジーにアクセスできる体内RFIDタグ、DNA編集技術のCRISPR(クリスパー)などが挙げられる。例えば、建築現場などの危険を伴う作業でも身体に装着するウェラブルデバイスを使用することで、電子的に脳波を測定し、疲労レベルを測定することができる。
コグニティブ拡張は、何かを学んだり、新しい体験をしたりすることを実現する。今後単体の人間の能力拡張からネットワークを前提とした拡張に発展すると、ネットワークで繋がった第三者が自分の頭の中に入り込んで、能力を利用することができるようになる。今後10年間で、人が個人の強化を模索するにつれて、身体と認知の人間の拡張(ヒューマーンオーグメンテーション)は高度化して普及が進むだろう。
トレンド5:透明性とトレーサビリティ(Transparency and Traceability)
“2023年までに、大企業の75%以上が、ブランドや評判リスクを軽減するために、行動フォレンジック、プライバシー、および顧客の信頼に関するAIの専門家を雇用するだろう。“
フェイクニュース、至る所に存在するIoTデータの収集、アルゴリズム・バイアス(アルゴリズムの誤動作)などテクノロジーの進化によって“信頼の危機”が生まれている。消費者の、個人データ利用に対する意識が高まるにつれて、企業は個人データの保護と管理のリスク責任を伴うことになる。AIやMLが人間に代わり意思決定をするようになると、信頼性に対するリスクは大きくなり、説明可能なAIとAIガバナンスが必要になってくる。
そのような中で、企業は、透明性と信頼を確保するために、整合性、倫理、オープン性、説明責任、コンピテンス、一貫性といった6つの領域に注目すべきだという。例えば、ローン申請を却下した顧客に対しては、アルゴリズムによって却下されたという事実だけではなく、その理由が説明可能であることが今後企業には求められていくだろう。
後編では、残りの5つのトレンドと、2019年版からトレンドがどのように発展したかを解説していく。