イノベーティブ・スタートアップ 2018.10.09

Airbnbを支える新サービス「Pillow」とルームシェアリングの行方

room sharing

こんにちは。Nissho Electronics USAの真次です。

Airbnbを始めとした民泊が徐々に一般的なものになりつつありますが、それを支える新サービス『Pillow』の誕生でアメリカに「新しい形の賃貸」が生まれようとしています。今回はそのPillowに焦点を当て、変わりゆくアメリカのルームシェアリング事情を考察したいと思います。

Airbnbを支えるPillowの存在

私は家族で集合住宅(以下アパートメント)に住んでいますが、 先日こんな書類が家に届いていました。

pillow-residential

書類を読むと、

You can now earn extra income? Airbnb? Through Pillow Residential?

さらに管理会社からメールが届いていました。

We have partnered with Airbnb & Pillow to enable you to earn extra income by hosting short term rental guests in your apartment in a secure and controlled manner. Most importantly, doing so will be compliant with your lease, once you’ve signed up with Pillow. 

Best of all, this amenity comes at no extra cost, and from Pillow’s estimates, our neighbors can now earn between $100-$180 for every night booked. 
(※一部抜粋 )

書類とメールの内容をまとめると、

  • アパートメントは、AirbnbとPillowの2社とパートナシップを組み、住民がAirbnbのホストになれるようにする
  • 年間14日以内でPillowを通して依頼する必要がある
  • アメニティなどはPillowが無償提供する

どうやら借りている住居を又貸ししてAirbnbのホストになれるようです。 Uberをはじめとしたシェアリングエコノミー時代の真っただ中ではありますが、まさか私の住んでいるアパートまでできるようになるとは驚きました。

素直な感想として、あまり嬉しいものではありません。サンノゼは治安が良いといっても異国の地。隣人にAirbnbのホストがいることで、オートロックで管理されたスペースに知らない人が入ってこれるというのは怖いものです。それにアパートメント管理側のメリットはないばかりか、安全性に対するリスクが増えているようにすら感じます。

しかし、実際にはこれが時代に合わせた新しい賃貸の形として普及しつつあるようです。既に世界192か国の33,000の都市、80万以上の宿を提供するAirbnbですが、ホストの受け入れをサポートするPillowと提携することでさらなる民泊の定着化を推し進めているのです。日本では住宅事業者法(民泊新法)が成立されるなど話題になりましたが、それでもオリンピックに向けて運用が進む可能性が見え始めています。

それではAirbnb普及の背景で、Pillowはどのような形で現代のルームシェアリングサービスを後押ししているのでしょうか?

Pillowとは

pillow-top

設立:2014年
本社:San Francisco
投資状況:Series A
総投資額:$16.2M
従業員数:11-50

Airbnbのエコシステムとして、サンフランシスコを中心にベイエリアで事業展開を続ける会社。Airbnbは民泊の開拓者として非常に便利な仕組みを提供してきましたが、それでも解決を必要とする問題はまだ多く残ります。さらに部屋を貸したい人、そしてアパートメントを経営している会社は上記の私のように心理的な壁や実際のオペレーションにおける課題を今も抱えています。Pillowはそのような問題に対し、テクノロジーを活用して彼らに解決方法を提供します。

・ホストの課題とPillowのサービス

それでは実際ホストとなる人たちには具体的にどのような課題があるのでしょうか?Airbnbでホストとして部屋を貸し出そうとすると、「どうやって宿泊客にカギを渡すか?」、「金額はいくらに設定するか?」「部屋の掃除は誰がいつ行うのか?」「宿泊する人のスクリーニングはどのように行うか?」など自らで準備・対応をしなくてはいけないことがたくさんあります。泊まる人のバッググラウンドチェックを怠ると大きな事故につながりかねません。

また、Airbnbは宿泊者からの評価もとても重要なシステム。サービスに手を抜いて点数を下げると次から宿泊者に選ばれなくなります。ホストは、客へ鍵を渡すところから最後に評価を受けるまでの間、一定のレベルを維持したサービスを届けなければいけません。

Pillowはそんな手間のかかる業務の代行サービスをホストに提供します。サービスには、鍵の受け渡し、ゲストのバックグラウンドチェック、アメニティの提供、清掃、収益管理、24/365のコールセンター提供等が含まれます。これらのデータはすべてホストのダッシュボードで一元管理できるようになっています。ホストには、簡単にそして安心してサービス提供ができるようにサポートし、また提供サービスの質を向上させることでホストの利益を拡大させる、というのがPillow利用の売りになります。

・アパートメントを経営している会社の課題とPillowのサービス

ホストにとってメリットとなるPillowのサービスですが、それではなぜアパートメント管理側もPillowと契約するのでしょうか?今回の大きな疑問の1つとなるところですが、実は多くのアパートメントでは、住人がAirbnbのホストとして勝手に住居スペースを貸し出すことを禁止しています。しかし、無許可で勝手にサービスを利用する住人は後を絶ちません。

実際、サンノゼ、サンタクララでAirbnbで検索すると多くのアパートメントの貸し出しが見つけられます。部屋番号などは書いていないケースが多く、問い合わせしないとわからない、というように「簡単に身元がバレないように」貸し出しています。アパートメント側は常にAirbnbをチェックするわけにもいかず、無法地帯となっている面があります。

そのような状況下でアパートメントは住人を取り締まるのではなく、むしろ安全に管理できる方法を選択しました。上記で述べたように、Airbnb利用が当たり前となりつつ今の社会では、Airbnbの利用を禁止するというのはもはや非現実的な話となってきました。そのためアパートメント側は、Airbnb利用を禁止できないのであれば、使いやすいサービスを住民に提供することで、安全に管理できる形にすることを目指しました。そういったアパートメントをサポートするのがPillowの役目というわけです。

Pillowを採用することで、すべてのデータがアパートメント側でも閲覧可能となります。誰がどれだけ利用しているのか、ゲストはどのような人か、といった情報が全て可視化されます。これにより、今まで無法地帯となりつつあったアパートメントでAirbnb利用の管理ができ、住人に対して今まで以上の安全を提供することができるのです。トラブルを完全に防げるわけではありませんが、リスクを最小化できるというわけです。このアプローチの仕方は、IT業界におけるシャドーITの問題と似ています。

現段階ではまだ批判が多い

Pillowを利用したアパートメント側によるルームシェアの推進ですが、理屈はわかりますがホストにならない住人側として感情的には簡単に納得できるものでありません。実際、サービス開始が発表されてから、アパート内の掲示板は以下のように批判の嵐でした。(1件だけ賛成意見を述べている方もいました)。

  • 知らない誰かにルールをどうやって守らせるのか?
  • 管理できるようにするというのはアパートメントの役割を放棄しているのでは?
  • アパートは家族や個人にとっての家です。アパートはモーテルでもホテルでもありません。
  • Airbnbの利用は家賃上昇に繋がるとデータが出ている。これ以上あげて欲しくない
  • 私はAirbnbを許可しないというのがこのアパートに住んだ理由だったのに

この背景には、年代間で異なるAirbnbの利用率があると思われます。他の新規サービス同様、Airbnb利用者の中心はMillenial、GenZ世代となっています。私の住んでいるアパートメントは比較的30代から40代の家族連れが多い環境のため、Airbnbに慣れていない人がまだ多いのかもしれません。

参考:USおよびヨーロッパのAirbnbを利用する人(Host)

airbnbusers-2017※Statista2018 – Airbnb users by age group in the United States and Europe 2017

時間は要するかもしれないが、日本での民泊定着に向けた解決方法になるかも

訪日外国人増加、オリンピック時の対応などを考えると、柔軟な宿泊施設の提供はとても重要です。住宅宿泊事業法(民泊新法)が成立し、住宅宿泊管理業者が義務付けられるなどルールが厳しくなりました。日本では、まだまだ民泊への反対者が多い印象ですが、Pillowのようなサービスによって、ユーザーによりよいサービスの提供と周辺住民への安心の提供が同時に実現されますので、民泊が日本の文化として拡がっていくことを期待したいです。

以上になります。最後までお読みいただきありがとうございました。ご質問はこちらの質問フォームからお気軽にご連絡ください。Nissho Electronics USAではシリコンバレーから旬な最新情報を提供しています。こんなことを調べてほしい!などございましたらぜひご連絡ください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Yukiharu Matsugu

2016年4月よりNissho USAに着任。屋外ネットワークとコンピューティングが得意。ITがワークスタイルを変革できると信じて日々最新情報を収集中。サッカーと将棋が好き。

この記事をシェアする

私たちと話しませんか?