シリコンバレーテクノロジー 2019.11.07

【InsureTech Connect 2019】インシュアテックは保険会社の敵か味方か

ITC2019

こんにちは、Nissho Electronics USAの小松です。

このたび、米国ラスベガスで開催された保険業界の年次カンファレンス「InsureTech Connect 2019(ITC 2019)」へ参加しました。インシュアテックは、これまでの保険業界構造やビジネスモデルに大きな変革をもたらすとされる、今最も注目されている分野の1つで、金融業界におけるフィンテックの位置づけと同じだと言えるでしょう。

今回は、ITC 2019で特に注目したいトレンドをご紹介し、結論として今後インシュアテックが保険会社にとって敵になるのか味方になるのか、筆者なりの意見を述べていきたいと思います。

トレンド1:Amazonなど異業種参入の脅威がますます大きく

保険業界で最もホットな話題の1つは、異業種企業による参入です。ITC 2019では、Amazonを意識した発言や、MicrosoftやGoogleからパネリストが登壇するセッション等、Big Techを意識する場面が数多くありましたが、やはり注目すべきはAmazon、J.P. Morgan Chase、そしてBerkshir Hathawayによるジョイントベンチャー「Haven」の設立です。

今や何よりも大事なのがデータ。そしてそのデータをいかに活用し、お金に変えていくかが非常に重要な時代です。銀行という古き良きシステムで長年にわたり、豊富な顧客データを管理してきたJ.P. Morgan Chaseと、E-Commerceを通じた顧客接点をつくり、データ企業の代表にまで急成長したAmazon。その両社が力を合わせて保険業界へ参入するということは相当なインパクトをもらたらします。

そのため、所謂これまでの保険会社にとってこの異業種参入の動きは脅威であり、この大きな流れにどのように応えていくかが非常に重要です。保険会社におけるインシュアテックとの付き合い方にも当然ながら影響するでしょう。

トレンド2:保険会社とインシュアテックの戦略的パートナーシップが加速

以前の記事でも少し触れましたが、保険会社自身がベンチャーキャピタルとなって、インシュアテック企業へ投資し、戦略的パートナーシップを強化する動きが進んでいます。

オンライン保険サービスの「Lemonade」のように彼ら自身で保険サービスを提供し、米国のみならずグローバルに展開を始めたインシュアテック企業もありますが、今回のITC 2019で私が注目するキーワードは「パートナーシップ」です。

すでに「CoverHound」や「LimeLight Health」等、多くの保険会社から出資を得て成長しているインシュアテック企業の登場も目立つようになっています。中には日本の保険会社が出資する企業もあります。この動きは上述したBig Techをはじめとする異業種からの参入によって加速していると言っても過言ではないでしょう。

また、Big Techとして登壇したMicrosoftによれば、「保険業界にはビル・ゲイツのようなパイオニアが存在しない。だからこそそれを補完するためのパートナーシップが最も重要だ」とコメントする場面も見られました。筆者の勝手な想像を含みますが、ビル・ゲイツのそれのように、業界をリードするインフルエンサーがいない以上、企業間連携によるエコシステムの形成が保険ビジネスの将来を良い方向に導いていくと考えられると思います。

トレンド3:APIによるオープンイノベーションが求められる

ITC 2019において、新たな話題として取り上げられたのはAPIの重要性です。

API

インシュアテックのグローバル化、M&A、異業種参入の次はAPIがキーワード

これは、金融業界におけるフィンテックの動向とまさに同じ道筋をたどっています。

金融業界には、オープンバンキングという考え方が既に存在しています。これは、顧客の同意が得られれば、銀行が保有する顧客データを提携企業が利用できるという考え方ですが、ここで重要になってくるのがAPIです。複数の異なるシステムをAPIを通じて連携させることで、双方にとって新たな価値やビジネスの広がりをもたらすのです。

これは保険業界にとっても同じだと言えます。勿論、顧客の同意を得られる前提ではありますが、保険会社も金融機関と同様に、提携企業と連携することで、ビジネスの可能性を広げられる要素を秘めています。米では殆どの保険会社のシステムがAPIベースと言われています。そのため、APIの考え方も浸透が早そうですが、日本は少しレガシーなシステムが多いとか。APIのメリットを享受するにはもう少し時間がかかりそうです。

ITC 2019開催期間と同じくして、BrokerTech Venturesというオープンイノベーションをうたうアクセラレータプログラムも発足しました。顧客の対面にたつBrokerのためのテクノロジー企業を育成するプログラムです。ここでもAPIが活躍しそうですね。

まとめ:インシュアテックは保険会社の味方。ただし…

今回ITC 2019に参加して実感したのは、「インシュアテックは保険会社の味方」だということです。その理由として以下3つのポイントが挙げられます。

⓵ Amazon等のBig Techをはじめとする異業種参入組の勢いに対抗する為には、保険会社はインシュアテックとパートナー関係にあるべき。

②保険会社とインシュアテック企業の戦略的なパートナーシップが進んでいることから、業界が味方論へシフトしはじめていると言える。

⓷ APIによるオープン化が進むということは、システム間のテクノロジー連携やエコシステムが急速に進みだすということ。つまり、パートナーシップが重要であり、テクノロジー動向としても協業の方向により進みだす。

ただし、保険会社にとって味方であるからといって、Big Tech企業にとって敵であるという結論には至りません。つまり、インシュアテックはどちらにとっても味方だということです。事実、数日前にAmazonは新たに「Health Navigator」というヘルスケア企業の買収を発表し、保険事業参入に向け着々と準備を進めています。また、Googleによる「Fitbit」買収も然りです。

そのため保険会社にとっては、今まで以上にスピーディにタイミングを見極めてインシュアテックと連携できるかがより重要になってくるでしょう。

最後までお読み頂きありがとうございました。Nissho Electronicsは最新テクノロジートレンドも視野に入れた、デバイスにとどまらない提案と構築・保守・運用の一貫したソリューションをご提供しています。サービスの詳細はこちらからご覧いただけます。また、弊社へのお問い合わせはこちらのフォームよりお気軽にご連絡ください。

この記事を書いた人

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Nobuyuki Komatsu

2004年、日商エレクトロニクス入社。JuniperやBrocade、Viptelaなどネットワークを軸としたインフラ製品の事業推進や新規ベンダー立ち上げに関与。2017年10月よりサンノゼ赴任。シリコンバレーで得られる最新の情報を発信しつつ、新たなビジネスモデル開発に向け日々奮闘中。2020年現在の担当領域は、クラウドやフィンテック、インシュアテックなど。バスケットボールとキャンプが趣味。

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