シリコンバレーテクノロジー 2022.09.21

【SaaStr Annual 2022速報】新たなトレンドキーワード「RevOps」

米国時間2022年9月13から15日にかけて、SaaS業界最大級のイベントSaaStr Annual 2022がカリフォルニア州サンマテオで開催されました。本イベントが始まったのは2012年で、今年は10年目を迎える節目の年です。当日はBessemer Ventureなどの著名VC、Y Combinatorなどのアクセラレーター、SaaSスタートアップなどによる数多くのセッションが行われ、終日盛り上がりを見せていました。

その中で最も印象的だったのは、スケジュール調整ツールCalendlyでCRO(Chef Revenue Officer)を務めるKate Ahlering氏のセッションで出てきたRevOps(Revenue Operetion:レベニューオペレーション)というキーワードです。本記事で詳しく解説します。

スケジュール調整ツールCalendlyとは

Calendlyは2013年に創業したアメリカのスタートアップで、スケジュール調整を効率化するツールを提供しています。2022年9月時点でシリーズB、$350.6M(約437億円)の資金調達に成功し、評価額$3B(約4,050億円)のユニコーン企業です。

使い方は、スケジュール調整を提案する側が都合の良いスロットを選んでURLを発行し、そのURLから参加者が都合の良いスロットを選ぶだけです。日程が決まったらCalendlyと連携済みのGoogleカレンダーやOutlook予定表などのツールに日程が自動で登録されるほか、Zoomなどのウェブ会議ツールと連携しておけばZoom Meeting IDなども自動発行されます。

これにより、メールで候補日を送り相手側からの返信を待つなどの手間が省け、スムーズに日程調整を行えるようになりました。

筆者のCalendly日程ツール画面。都合のよい時間帯をすでに複数選んであるので、ここから参加者が都合に合う時間帯を1つ選ぶと、お互いのカレンダーにMTG日程が自動登録される。

RevOps(Revenue Operations:レベニューオペレーション)とは?

ここからはCalendlyのCRO、Kate Ahlering氏が語るRevOpsの要点を紹介します。

RevOpsが求められるようになった背景と目的

多くのSaaSスタートアップでは、プロダクト主導で事業を拡大するPLG(Product-Led Growth)戦略が主流です。今では仕事で欠かせないZoomもPLGで一気に成長を加速させた代表的なスタートアップです。

Calendlyも創業以来PLG戦略を採用してきた1社ですが、多様化するユーザーニーズへの対応や更なる成長を見据え、営業主導で事業を拡大していくSLG(Sales-Led Growth)戦略を新たに取り入れました。

ここでネックになるのが、2つの戦略を実行する組織が複雑になる点です。

というのも、PLGとSLGではマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスなど各チーム毎に異なる目標やKPIの設定が必要になるからです。さらにチーム数の増加に伴って組織間の連携がしづらくなり、最終的にプロダクトやユーザー体験に影響を与える恐れもあります。

そのような問題の解決策として、同社では組織連携を強化して複雑化した組織の無駄を省き、組織の収益性を高める新たなポジションが必要という考えに至りました。それこそがRevOpsであり、そのミッションは収益の最大化です。

Kate Ahlering氏がプレゼンテーションをしている様子

RevOps成功の3つのポイント

Kate Ahlering氏によると、RevOpsを実現するうえで重要なポイントは3つあります。

Achieving Alignment(組織間の方向性を統一)

B2BマーケティングのSiriusDecisions(2018年にForrester Researchが買収)によると、社内の組織間で方向性を統一できている企業は成長率と収益性が高いことがわかっています。

方向性を統一するには、まずエグゼクティブレベルで各組織のゴールやKPIを共有し意識し合うことが重要です。Calendlyではセールスチームの達成目標であるARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)、マーケティングチームのKPIであるMQL(Marketing Qualified Lead:見込み顧客)などを組織全体に共有しているそうです。

さらにエグゼクティブレベルでそれらKPIなどの定義に対する認識を揃えて、SLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)を作ります。例えばMQLに対してセールスが2営業日以内ににフォローアップするなどの基準を設けるのも、ここで言うSLAにあてはまります。

Achieving Alignmentの説明スライド

Building the Engine(エンジンを構築)

RevOpsを実行していくエンジンは4つあります。

  • Strategy and Planing(戦略と企画):定期的に戦略を評価して、次の打ち手
  • Core Ops(コア・オペレーション):より効率的なワークフロープロセスを
  • Enablement(イネーブルメント):セールスやカスタマーサクセスチームなど現場チームと連携して戦略を実現する
  • Analytics(分析):豊富なデータを分析して活用する

 

RevOpsを実行する担当者は、各組織と連携してこれら4つの機能を提供していくことが求められます。

Building the Engineについて説明する様子

Measuring Success(成功を測定)

RevOpsの目的である収益の最大化を実現するためには、目標やKPIの達成度からプロダクトやサービスの提供価値や顧客満足度が向上しているか判断し、必要に応じて改善策を実行していくことが重要です。

多くの企業はQBR(Quarterly Business Review:四半期ビジネスレビュー)で目標に対する進捗状況などを確認する場合が多い一方で、RevOps担当者はこまめに改善を繰り返していきます。

Measuring Successの説明スライド

最後にRevOpsは収益の最大化を実現するドライバーになるという力強いメッセージでセッションは締めくくられ、会場は拍手喝采でした。

NisshoUSA注目ポイント

私がRevOpsに注目した理由は2点あります。

1点目はRevOpsの考え方はSaaS企業だけでなく日本の企業にも必要なものだと感じたからです。収益の最大化と聞いて私の頭にパッと思い浮かんだのは残業代削減などのコストカットですが、Kate Ahlering氏が語るRevOpsは組織間の連携を強めユーザーにより良いサービスを提供することで結果的に収益を最大化するという根本的に異なる発想でした。この考え方は業種問わず必要なマインドではないでしょうか。

2点目はRevOpsを実現するスタートアップが今後誕生してくると考えられるからです。Kate Ahlering氏のようにノウハウを持ち合わせている人は特別なツールを利用しなくともRevOpsを実行できますが、多くの人には困難でしょう。カスタマーサクセスが流行り始めた時にGainSightのようなカスタマーサービスプラットフォームが誕生したように、私はこの数年でRevOpsに特化した新たなスタートアップが誕生してくると予想しています。

RevOpsの考えを自社で取り入れるのはもちろん、自社で培ったノウハウと共に新たなスタートアップのテクノロジーを提供するという新たなビジネスが生まれるでしょう。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

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Shuichi Noto

2008年にユニアデックス入社。5年間の大手通信キャリア向けの営業を経験した後、日商エレクトロニクスへ入社。大手OTTの情報システム部門向けにVDIやWeb会議などの働き方改革を促進するソリューションの販売に従事。2019年よりNissho USAに赴任。お客様のビジネスを共創&サポートできるようなソリューションの発掘を目指し日々活動中。担当領域はITインフラ全般、ヘルスケア業界、地域創生など。趣味はゴルフとサッカー。

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