シリコンバレーテクノロジー 2023.04.27

【Webinar記録】ShopTalk 2023から見る小売業界最新トレンド

2023年3月、小売業界向けイベントの中でも世界最大級の「ShopTalk 2023」が、アメリカ・ラスベガスで開催されました。もともとは、「Money20/20 」という金融系イベントの中でリテールのセッションが開催されており、そのセッションが独立し「ShopTalk」が生まれました。本ウェビナーでは、「ShopTalk 2023」に参加した米国駐在員の日商エレクトロニクスUSA・門馬と、ダイヤモンド・リテイルメディアの小平田康寛様から、当日のイベント内容や様子をお伝えします。

 

イベント概要

「ShopTalk 2023」の参加者は約10,000名、スポンサーは約650社でした。昨年のスポンサーは約600社ということで、少し規模が拡大しています。参加者・スポンサー間の打ち合わせも積極的に行われており、50,000件を超える打ち合わせが設定されていました。参加者は、事前に用意されているマッチングポータルを活用し、スポンサーと簡単にマッチングが可能。今後「ShopTalk 2023」への参加をお考えの方は、活用してみてはいかがでしょうか。

Key Findings

「ShopTalk 2023」に参加して得られた気づきは、以下の3点です。

  1. オムニチャネルからユニファイドコマースへ
    近年、これまで多くの小売業者が注力してきた「オムニチャネル」に代わる概念が登場しています。その一例として「ユニファイドコマース」という考え方があります。特にZ世代には、SNSや動画サイトからの商品購入を好む傾向があり、これらのチャネルが存在感を高めています。よってリテールにおいても、SNSや動画サイトとよりシームレスに接続できることが重要になってきます。
  2. ブランドはこれまで以上にクリエイティブになる必要がある
    AIの活用を促進することで、各ブランドはよりクリエイティブなキャンペーンを行える、という点です。この後の「注目セッション」で、Pinterestのコラージュ作成アプリや、マクドナルドのキャンペーンなどをご紹介します。
  3. システムと顧客を接続することが重要
    いかにスムーズに新興ブランドと顧客をつなげるか、また、文化の異なる海外の顧客を自社のサービスとつなげるか、という点が重要です。その点におけるプラットフォームの役割や地域密着のための姿勢についても、後ほどご紹介します。

注目セッション

「ShopTalk 2023」では、合計80のセッションが行われました。その中から注目セッションを5つピックアップし、サマリーをご紹介します。

1. デジタルウインドウショッピングというユニークな立ち位置

1つ目は、Pinterestのセッションです。講演者のBill Readyさんは、2022年の6月に新しくCEOに就任されました。Pinterestは、米国のZ世代から絶大な支持を受けており、現在4億5000万人以上の月間アクティブユーザーがいます。もともとは、ユーザーが作成したコンテンツ(UGC)を閲覧して、インスピレーションを得るプラットフォームでした。しかしコロナ禍を経て、「デジタルウインドウショッピングのプラットフォーム」として注目を集めています。

Pinterestはこれまでも、利用者がインスピレーションを受けてそのまま買い物をする、という購買行動につなげられていました。そこで、ShopifyなどのEコマースプラットフォームと連携させたり、ブランドにカタログを掲載させたりすることで、広告収入を得る仕組みを構築したのです。そして、コロナ禍でウインドウショッピングの機会が損なわれた結果、デジタルウインドウショッピングの機能を持つPinterestが注目されるようになりました。カタログ掲載企業は前年比約70%増で、現在10億点以上のアイテムが登録されています。

また、Pinterestは「Shuffles」というサービスを提供しています。利用者はShufflesを使うことで、スライドのようにコラージュを作成・投稿することができます。また、利用者は他の利用者のコラージュを見ることで、気になる商品のよりよい組み合わせや、スタイリングに関するインスピレーションを得られるのです。また、利用者が作成したコラージュをAIが学習・分析することで、AIのリコメンデーション技術の精度向上にも役立っています。Pinterestは、非常に上手にAIへのインプットデータを収集する方法を確立しています。

2. GoogleのAI戦略

2つ目は、Googleのセッションです。登壇したSean Downeyさんは、Googleの南北アメリカ・グローバルパートナー担当の責任者です。本セッションでは、GoogleのAI戦略について触れていました。まずは話題の生成型AIである「bard」について。現在、多くのテスターにbardを使ってもらい、フィードバックを得ている段階だそうです。開発の進捗がよいのか、bardを検索エンジンに組み込む話も出てきました。

そのほか、写真から不要なものを削除する「Magic Eraser」や、Gmailのサマライズ機能、コラボレーションによる仕事の効率化機能など、GoogleはAIを積極的に活用しています。ただAIについては、偏見などの倫理的な問題が常につきまといます。Googleとしては、企業での活用をより強く意識し、AIの返答に対する説明責任を果たすことが重要と考え、実装していきたいと明言していました。顧客から直接、信頼できるファーストパーティーデータをより多く集めることで、その正当性を評価できると述べています。

また、小売業でのAIの利用用途として、いくつかのユースケースが紹介されました。その代表例は、パーソナライズされた広告を表示させるシステムや、多くのリテールが頭を悩ませる需要予測や在庫管理、顧客の位置情報からの購買傾向の予測などです。Googleは、これらの生産性を高めるAIツールを1社で提供することで、強みを発揮したい意向です。

なお、外的な変化としてチャネルの多様化についても語られました。現在、多くの企業が「オムニチャネル」のキーワードのもと、オンラインとオフラインのシームレスな連携を意識しています。しかしZ世代を意識すると、SNSや動画サイトも一つのチャネルとして存在感を高めています。実際に、Z世代のうち74%の人が購入前にYouTubeを見て、その商品をクリエイターが使っているか確認するそうです。つまりこれからの小売業に求められるのは「オムニチャネル」ではなく、多数存在するチャネルを統合的につなげる「ユニファイドコマース」であり、Googleはそれらを1社で提供できる点を強みとして、発揮していきたいとのことでした。

3. マクドナルドにおける先進的なAIの活用

3つ目のマクドナルドのセッションでは、CMOのMorgan Flatleyさんが講演しました。マクドナルドは今、ほとんどの取引がデジタル化されているという中国市場の先進性から、学びを得ているようです。最近の取り組みとしては、シカゴの10か所の店舗で、ドライブスルーの注文対応の約80%を、AIを用いたSiriのようなシステムで対応する実験を行いました。注文受付の精度は85%程度だったそうで、まだまだ改善の余地ありとしています。

この後詳しくご紹介しますが、中国の旧正月に向けて、ARやメタバースなどを用いたキャンペーンを展開しています。このキャンペーンでは、生成型AIを用いた画像生成を行ったそうです。また、AIを用いて3D映像を作成するNeRF(ナーフ/Neural Radiance Fields)技術も、CM作成に取り組んでいます。

Morganさんは、「これらのAI技術は、自社のクリエイティビティを増大させ、迅速なキャンペーン展開をサポートしてくれる」と言及していました。これまでは、ブランディングにおけるさまざまなアイデアを時間をかけて試してきたそうです。しかしこうしたAI技術の活用により、かなり迅速にプロトタイプを作成し、アイデアを試すことができるようになっていると、その期待をうかがわせました。

もともと、マクドナルドはマーケティングに強い会社です。こうした革新的な技術を利用することで、マーケティングをより活性化させ、顧客とブランドを積極的に結びつけることをやっていきたいとのことでした。

最後に、セッションの中で語られた、旧正月に関するキャンペーンについてご紹介します。人気クリエーター・Karen X Chengさんとコラボレーションした、インタラクティブ性に優れたAR/VRコンテンツです。このコンテンツはブラウザからアクセスできるもので、旧正月をテーマにした世界に入り込むことができます。気になる方は、下記リンクからお試しいただくと、参考になるかと思います。

https://www.mcdlunarnewyear.com/

4. 新興ブランドを支えるEコマースプラットフォーム

4つ目のVERISHOPのセッションでは、CEOのImran Khanさんが講演をしました。VERISHOPは、新興ブランドを支援するEコマース・プラットフォームを提供しています。Imranさんは、主に米国で利用されているSNS「Snapchat」の企業戦略を担当されていました。Snapchatを運営するSnap社の年間平均収益を、0円から4年で2000億円まで押し上げた人物です。

VERISHOPのサービスの特徴は、送料無料、返品無料、ライブストリーミングショッピングの提供などです。ライブストリーミングにおいては、利用することでスタイリングのヒントを得たり、美容系の商品のデモを見たりすることができます。

同社では、米国の放送局「NBC」とパートナーシップを組み、ショッパブルTVを提供しています。さらに、そのショッパブルTVに広告を入れることで、広告収入を得ています。いわゆるリテールメディアです。EコマースやSNSとの連携ではなく「テレビとの連携」という意味では、非常に新しいアイデアです。

また、約81兆円分の商品が返品されている米国において、IMRANさんは「返品をしない代わりに追加値引きを提供する」という斬新なプログラムを提供。買い物客の20%がこれを利用したそうです。こうした新しい取り組みはもちろん、基本的なサービスとして、小規模な新興ブランドが、配送サービスや顧客管理などを簡単に提供するためのシステムを構築しています。小規模な新興ブランドがこれまで着手できていなかった、購入後の顧客体験の改善にも取り組めるようになっています。

5. グローバル化の成功ケース

5つ目は、Walmart InternationalのCEO・Judith Mckennaさんのセッションです。これまでの4つのセッションとは少し趣向が異なり、グローバル化におけるヒントとなりそうな内容でした。Walmart Internationalは世界19カ国で事業を展開しています。日本とイギリスからは撤退しており、デジタルの活用という視点で注目している国は、中国とメキシコ、インドとのこと。中国はデジタル決済の普及率が非常に高く、決済の約50%がデジタルで行われています。同社は中国市場に入り込むことで、多くのナレッジを蓄積しています。

一方、メキシコは中国とは逆で、デジタル化があまり進んでいませんでした。同社はそこで撤退するのではなく、通信事業者と協業してインターネット事業を立ち上げました。この取り組みは同社にとっても、非常に画期的なことだったそうです。デジタル化が進んでいない地域にデジタル化を根付かせるアクションを取り、信頼を勝ち取ることに成功しています。

進出当初、インドはデジタル発展途上国でしたが、その後、急速な発展をしています。同社は、決済事業を展開する企業「PhonePe」に投資することで、地域への密着を図りました。当初2020年末のPhonePeの決済金額合計は9.3兆円程度でしたが、現在はなんと132兆円に。今年の3月には、PhonePeに対して265億円を追加投資しています。市場に合わせた動き方という点で、とても適した解答を出せているようです。

また、「各国でライフステージや発展段階は異なるが、便利さやデジタルへの関心など、根本的に似ている部分はある」と興味深いコメントを残されています。そのうえでマーケットプレイスを拡大し、効果的に顧客を繋げることが重要とのことでした。

展示会場の様子

展示会場には、参加者の目を引くさまざまな展示がありました。

SES-Imagotag

キンドルでも使われるEインクを使用した、電子棚札を提供。Walmartなどで利用されています。今回の展示は、スマートシェルフです。カラフルなLEDディスプレイで商品を目立たせるだけでなく、リモートで簡単に表示価格の変更が可能。QRコードを介して、商品の詳細を提示することもできます。

Instacart

展示内容は2022年のGroceryshopとほぼ変わらないものの、買収したCaper社のスマートカート、Scan&Pay、電子棚札などが展示されていました。Scan&Payはスマートフォンのブラウザで動作するため、アプリのダウンロードは不要。UIも非常に使いやすそうな印象でした。

J.P. Morgan

スマホで提供できるPOSシステムを展示していました。高額なレジを購入するのではなく、スマホにアプリをインストールして決済する機能を、小規模な店舗向けに提供しています。

Firework

ライブコマースコンテンツをウェブに組み込むソフトウェアを提供。同社は2022年までスタートアップピッチに出場していましたが、2023年にはこのような大きなブースを出すほどに成長しています。機能実装も積極的に行っており、組み込み方(表示方法)のパターンが増えていたり、シームレスなチェックアウトをサポートしたりしていました。2022年にはソフトバンクのリードで約100億円の資金調達をしており、勢いを感じました。

DroneUp

実際にWalmartが採用している、配送ドローンを展示していました。配送は、テキサス・アリゾナ・フロリダの一部地域で利用されています。一度に配送できる荷物は、5㎏程度。飛行状態のドローンから、ひもでつながれた配送物をゆっくり落とし、配達を完了します。集荷も可能とのことです。

Fetch

米国内で展開する、ロイヤリティアプリを展示。利用者が領収書の写真を送ると、提携している小売業などからリワードが得られるプログラムです。小売業側としても、顧客のデータを収集し、購買データを効率よく収集することができます。

スタートアップピッチ

今回は12社のスタートアップが参加し、第1ラウンドでそれぞれ3分間のピッチを行いました。その後、選ばれた6社が第2ラウンドに進み、審議者とのQ&Aを行います。その中から2社にアワードが授与されました。ここでは、第2ラウンドに進んだ6社をご紹介します。

1社目:Drop

Dropは会話型コマースのプラットフォームを提供しています。Instagramと簡単に接続でき、フォロワーに対してインフルエンサーが新製品の紹介や販売を行ってくれます。ユーザーにとって使い慣れたプラットフォーム上でプロモーションできるため、メール配信などと比較すると開封率が約80%と、驚異的な効果を得られます。コンバージョンやエンゲージメントの数値も高く、実装方法も簡単で、Shopifyのプラットフォームとの連携、Eコマースとの直接の連携のどちらでも対応可能です。顧客のプロファイルを構築し、誰が、何を、いつ、なぜフォローしたかを分析したレポートも提供。このレポートをもとに、各利用者にパーソナライズした広告配信を行うことも可能です。アシックス他、現在数社が利用しています。

2社目:Gander

Ganderは、ライブストリーミングを含むランディングページの構築を行います。買い物客の多くは、WebやSNSを検索して、ストレスを感じながら商品の使用方法や注意点を学習し、商品を購入します。商品の詳細ページが最適な場所にないため、企業が期待した通りのコンバージョンが実現しない現象が起きているのです。Ganderは、付属のCMSツールでコードを書き込むことなくランディングページを構築でき、状況に応じて簡単に表示方法を変更できます。分析機能もついており、常に状況を見ながらの改築が可能です。ライブストリーミング機能については、動画の作成も支援してくれます。1,000名以上からなる独自のクリエイターネットワークに商品のサンプルを送付するだけで、30日で作成された動画が届きます。顧客への教育を目的として、動画に簡単なクイズを組み込むことも可能です。

3社目:Wink

Winkは、顔認証と音声認証の組み込み技術を提供しています。ログインやチェックアウトにおけるID・PW認証は、セキュリティ強度が高くないだけでなく、スムーズなチェックアウトを妨げ、カートの放棄にもつながっています。しかしWinkの特許取得済みの匿名暗号化技術は、ユーザーの顔と音声データを、復号化できない数字と文字を羅列した一意のIDに変換。顔や声の情報は、ブロックチェーンベースのクラウド上の台帳に保管され、容易に侵入ができない仕組みを構築しています。Shopifyなどの主要なEコマースプラットフォームと連携が可能で、ノーコード/ローコードをサポートしているため、立ち上げも簡単です。多様な認証デバイスをサポートしており、PCやスマホ、タブレット以外に、自動車、テレビ、POSに組み込むことも可能です。最近はクアルコムの自動車部門と提携し、コネクテッドカーにおける新しいカメラベースのドライバー認識と、ハンズフリー決済技術を提供し始めています。

4社目:Hark

Harkは、購入した商品に不備があった場合、ビデオ撮影を通じて問い合わせができるサービスです。初回の問い合わせから15秒程度の動画を用いることで、問題点が明確に伝わります。問い合わせが受理されると利用者にはリンクが送られ、そこから問題状況の追跡もできます。カスタマーサポートチームにとっても、状況確認のために何度も顧客とやり取りをすることが減り、たった1回の回答で解決するケースが約25%増加。結果的に顧客満足度も高まり、1つのケースの解決にかかっていたコストが約30%減少します。Zendeskなど使い慣れたヘルプデスクシステムが既にある場合でも、簡単に連携可能です。

5社目:ReflectMe

ReflectMeは、商品詳細ページに直接、自分と似た実在の人物の写真を投影・選択できるようにするサービスです。衣料品やヘアケア、美容関連の商品のウェブサイトには、自分と異なるイメージのモデルが掲載されていることが多く、自分の体型や肌の色に合う商品なのか測ることは困難です。モデルと自分のイメージが違うことで、劣等感にも似た「自分は十分ではない」という印象を、顧客に与えてしまうことも。例えば、衣料品においては、ボタンを押すだけで、自分と似た身体的属性 (身長、体重、年齢など)の人物が着た製品を、視覚的に見ることができます。特に衣料品の返品率の高さは社会問題となっており、返品の約3/4はサイズが原因、というデータがあります。損失額に直すと、小売業者全体でなんと8,160億ドルの損失です。ReflectMeを導入することでエンゲージメントが高まり、返品を減らすことも可能です。

6社目:Syrup

Syrup Techは、ブランドや小売業者の在庫管理を最適化する、アパレル業界向けAI需要予測ツールです。同ツールでは、POSデータや流通状況、現在の在庫状況だけではなく、TikTokのトレンド情報などのデータも使い、AIが数百におよぶ変数を用いて今後の需要を予測。分析の結果、生産方針や在庫の扱いにおける推奨事項を提示します。需要予測の幅は、商品の色やサイズ、スタイル、販売場所にまで及びます。経験による誤った需要予測要素を排除し、在庫切れや過剰在庫の削減、手動ワークフローを排除することによる時間の節約を実現。利益率の向上効果が期待できます。実際に導入した顧客は粗利益率を約10%向上させ、過剰在庫を約20%削減。手作業のワークフローに費やす時間が、約90%削減されました。

流通専門メディアから見た「ShopTalk 2023」の実力とは?

今回、「ShopTalk 2023」に参加された小平田 康寛様にも、ご講演いただきました。小平田様は、株式会社ダイヤモンド・リテイルメディアで、流通マーケティング局の部長を務めていらっしゃいます。

【小平田様(以下、敬称略)】弊社は毎年「NRF」にも参加しており、私も2023年1月のNRFに参加してきました。このWebinarに参加された方の中にも、NRFに馴染みのある方がいるのではないでしょうか。そこで、NRFとShopTalkを比較しながら、門馬さんとは少し違った観点で「SHOPTALK 2023」についてご紹介します。

会社紹介・自己紹介

【小平田】弊社は株式会社ダイヤモンド・リテイルメディアという、流通系の雑誌を手がける会社です。名前の通り、100%ダイヤモンド社の子会社です。簡単に自己紹介もさせていただきますと、私は弊社の中で、デジタルマーケティング戦略室というマーケティング部隊におります。特にオンライン周りを手がけており、時々海外にも行きながら、こうして情報発信もさせていただいています。

SHOPTALKとNEFの違い

【小平田】まずは「SHOPTALK 2023」について、「NRF 2023」とどういう違いがあるのか、お伝えさせていただきます。

開催概要

NRF 2023は来場者数が約3万5000人で、出展社が約1000社、セッション数が約175と、人が非常に多かったです。会場は人でぎゅうぎゅうで、肩がぶつかるほどでした。しかし会場自体も広いため、講演間の移動も間に合わないほど。来場者の中に日本人は割と多く、100人以上は来ているなという印象でした。

SHOPTALK 2023は来場者数が約1万人で、過去最高だったようです。出展社は約400社、セッション数も約70と、規模的にはNRF 2023のほぼ半分でした。その分、会場もコンパクトで移動がしやすく、割と効率的にいろいろな展示が見られました。日本人は20人もいなかった印象で、アジア人も少なかったです。

主要テーマ

大きなトレンドとしては、どちらも同じようなことが取り上げられていた印象です。ただ、ジェネレーティブAIや生成型・対応型AIについては、強調度合いが多少違った印象でした。これは、上記テーマが盛り上がった時期と、各イベントの開催タイミングの兼ね合いによるものかと思います。

講演内容

NRF 2023は、CEOが登壇し、小売業全体の方向性を語る形の講演が非常に多かったです。一方SHOPTALK 2023は、俗に言うCXOが登壇し、普段の実務も踏まえてテクノロジーの活用について話す傾向にありました。そういう意味で、個人的にはSHOPTALK 2023の方が、満足度が高かったです。

コミュニケーションポイント

これはかなり違いを感じました。NRF 2023は、他の参加者と話すことはできるものの、基本的に会場自体がとても混んでいます。事務局も、参加者同士のコミュニケーションの場を用意しているかというと、小売業向けのパーティー以外には何もない印象でした。

一方SHOPTALK 2023は、計5万回のミートアップ(商談)があり、参加者向けに朝食から夕食まで用意されていました。食事はビュッフェ形式で、横に座った参加者と話したりしました。また、ホテルのビーチでDJつきのパーティーがあったり、ノベルティバッグが配られてたりしていて、それをきっかけに声をかけられたこともあります。このように、事務局が参加者同士の接点を意図的に作ろうとしている点が、非常に素晴らしいなと思いました。

ちなみに、SHOPTALK 2023では私もミートアップに参加しました。アルバートソンやウォルマートなど、アメリカの小売業者と話したいと思い、大企業にもどんどんリクエストしてみました。さすがに、実際に話す機会には結びつきませんでしたが、運がよければ話が聞けることもあるのは、非常に大きなポイントかと思います。

展示内容

NRF 2023の展示は、俗にいう大企業、ビッグ・テック系が非常に多いこともあり、ハード系の展示が多い印象でした。例えばレジや、ダッシュカートのスマートカート、無人店舗などがそうです。一方SHOPTALK 2023では、どちらかというとソフト関連の展示が非常に多い印象でした。Caperのスマートカートやドローン、ロボットも一部展示がありました。

~カンファレンス紹介~

【小平田】SHOPTALK 2023のカンファレンスについてご紹介します。門馬さんのお話をふまえた上で、大きく5つの視点からお話しします。

1:Technology・AI

テクノロジー(AI)活用への投資はそもそも必須かつ当たり前であり、AIを活用していかに効果的にデータ分析をするか、パーソナライゼーションにおいてAIとどう協働していくかという点が、ポイントとして語られました。Web3やメタバースについては、Z世代を中心としたブランド体験に活用できるのでは、とのことでした。

2:Store Experience

データやテクノロジーを活用して、いかにユニークな店舗体験を提供するか、お客様の不満をなくすかというテーマです。また、小型店舗を出店することで、商圏充足度を向上させることについては、TargetやNIKEが実践しています。COACHも、小型店舗の出店を通して親しみやすさをPRしているようです。

3:Customer/Shopper Engagement

これからはやみくもにフリクションレスを目指すのではなく、「楽しさ(Have fun)」へのシフトがどんどん進んでいくだろう、と語られていました。プロモーションについても、データを活用して費用対効果が良いものに絞っていき、ロイヤリティプログラムについても、改めて非常に大事だという内容でした。そこに関して、パーソナライズや1stデータは有用です。また、ゲーミフィケーションやライブコマースを利用することで、顧客とのつながりを作っていくこともできる、と語られていました。

4:Emerging Channels

SNSショッピングにおいて、コンテンツ強化は必要とされており、リセール市場も非常に拡大しています。そしてそこには、SDGsの観点もあります。また、直販と卸売のマルチチャネル対応という点では、例えばNIKEがDtoCに向けて舵を切ったことが、非常に話題となっていました。ただ、DtoCだけではなく卸売や小売ともよい関係性を保ち、規模を拡大していくことが大事であり、リテールメディアの事業でも収益性を上げていきましょう、という論調でした。

5:Organization&Employee

アメリカの特徴として、多様な人材を採用し、教育への投資をしっかりしていくという点があり、従業員へのテクノロジー投資も大事だということが語られました。また、アメリカの小売業においても離職率は非常に高いため、従業員ケアも大切であり、彼らをつなぎとめるためのテクノロジー投資もしていきましょう、というお話でした。

ウォルマートは3セッションで講演し、アメリカ引いては世界での存在感を示した

また、私が一番印象に残ったウォルマートのセッションを、以下でご紹介します。

インターナショナルとアジャイルMD

インターナショナルについては上記の門馬さんのご説明の通りで、アジャイルMDについては、コロナ禍において非常に多くの変更を実施してきたという話でした。コロナ禍ではECでの売り上げがとても伸びた反面、ウォルマートではカーブサイドピックアップなどを活用し、店舗にもお客様が来店していました。そこをよく観察・分析し、数々の変更に生かしてきたそうです。EDLP(Everyday Low Price)はもちろん、高品質を実現するために、データを非常によく活用しています。店舗の設備や販促など基本的な面から、サプライヤーとの関係性に至るまで、かなりアジャイルにデータ活用している点が印象的でした。

リテールメディアについて

このテーマは個人的に、一番良かったです。ウォルマートのCRO、要は収益の最高責任者が話をしていました。基本的には、彼がウォルマートの新規事業に全部責任を持っているということです。彼は特に、データを活用したリテールメディアの領域拡大に、何度も「エキサイト」と言っていました。さらに、リテールメディアはマーケティングの担当者だけが考えるのではなく、サプライチェーンや地域を巻き込み、全社的にどうしていくかを考えていく必要がある。そしてそのために、組織をどんどん変えていくという気概が感じられ、さすが世界No.1シェアのウォルマートだなと、その存在感の大きさを感じました。

~展示ブース紹介~

EXPOに関しては、オムニチャネルやユニファイドコマース対応のサービスが多かったです。コマース関連やペイメント関連、新チャネル向けのリテールメディアやデータ活用などの展示がありました。そして、「スモールビジネス」というキーワードが、どのブースからも聞こえてきたのが印象的でした。

トピックスとしては、Amazonの展示が3つありました。Amazon Pay、Amazon Prime、Amazon todayがあり、そのうちのAmazon todayとAmazon Primeは、日本で提供していないであろう内容が展示されていました。Amazon todayはロジスティックス系のサービスです。Amazon Primeは日本にもありますが、例えばInstagramのDtoCブランドに、Primeのロゴをつけることによって届く日が分かるようにするなど、Primeのロゴをバッチとして使っていました。

また、Instacartの展示もかなり魅力的で、おそらく展示の中で一番賑わっていたと思います。スマートカートやCarrot Tags、Scan&Pay、あとはFoodStormという、中食のBIツールのようなサービスを提供していました。また、AIを活用してプロモーションを分析したり、価格設定を行うEVERSIGHTというツールもありました。スモールビジネスの一環として、俗にいう中小規模のスーパーのデジタライズに役立つサービスを紹介していました。

最後に~SHOPTALKの実力はどうだったのか~

結論として、「ShopTalk 2023」はとてもよかったです。アメリカのリテールインダストリーにおいて、テクノロジーの活用は当たり前のものとなっています。そして、ここ10年ほど目指されていたフリクションレスな体験から、買い物の楽しさをテクノロジーで提供していこう、という流れになっています。そのためには、価値提供におけるパーソナライズが必須であり、そのために組織自体も変えていく必要があります。

とはいえ、まだ経済環境は不透明であり、店舗とオンライン以外にも、マーケットプレイスやリテールメディアなど、さまざまなチャネルでの展開が必要だということでした。例えば、ウォルマートの配達サービス「GoLocal」のような話ですね。そうして、収益性を確保していくことが必要だということでした。

また、最先端のテクノロジーの話題として、皆ジェネレーティブAIに注目していました。2023年の展示ではDtoCブランド等のスモールビジネス支援などが多かったものの、2024年になると、展示もジェネレーティブAI一色になるかもしれません。

小売企業関係者の皆さまにとって、ShopTalk 2023は参加する意義のあるイベントだと、個人的には感じました。アメリカの直近のリテールトレンドや、テクノロジー活用の詳細、今後の動向など、非常によく分かりました。それに、まだ日本人はこのイベントに20人ほどしか来ていません。参加すればいろいろな意味で、ファーストペンギンになれると思います。ShopTalkは2024年3月にも開催が予定されているので、皆さまぜひ、ご一緒しましょう。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。
Nissho USAは、シリコンバレーで35年以上にわたり活動し、米国での最新のDX事例の紹介や、斬新なスタートアップの発掘並びに日本企業とのマッチングサービスを提供しています。紹介した事例を詳しく知りたい方や、スタートアップ企業との協業をご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。

この記事を書いた人

この記事を書いた人

Takashi Momma

2007年に日商エレクトロニクス入社。Arbor Networks(現 Netscout)などネットワークおよびセキュリティ関連製品立ち上げ、事業推進を担当。2022年よりNissho USAに赴任。当社が目指す「お客様との事業共創」を実現すべくシリコンバレーの最新情報の提供、オープンイノベーションをベースとしたビジネスモデル開発に向けて活動中。 趣味はサッカー。

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