シリコンバレーテクノロジー 2020.07.28

2020年上半期投資トレンド分析

先日、スタートアップや投資情報を提供しているCrunchbase NewsからQ2 Venture Reportが発表されました。今回はその内容を開設しながら、2020年上半期(2020年1月〜6月)の北米(米国&カナダ)投資動向の分析を行い、COVID-19が投資にどのような影響を与えたか、そして今後の投資トレンドを考察していきたいと思います。

2020年上半期の北米投資額は$64B(約6.8兆円)、前年比と比べて約10%減少

2020年上半期の北米投資額は$64B(約6.8兆円)となり、2019年上半期(2019年1月〜6月)と比較して約10%の減少に留まる結果でした。そのなかでもCOVID-19の影響が出始めた2020年Q2(2020年4月〜6月)の投資額は$29.8B(約3.1兆円)であり、2019年Q2と比較して18%減という結果になりました。その中身を見ると、$100M(約106億円)以上の大型投資額はほぼ変わらないという結果でしたが、$100M(約106億円)以下の投資が約31%減少していることが分かりました。ちなみに2020年Q2に$100M(約106億円)以上の調達に成功した事例としては、自動運転車を開発するWaymoがgoogleから$750M(約795億円)を調達、フードデリバリーサービスを提供するDoorDashが$400M(約424億円)の調達に成功するなどの事例がありました。

COVID-19の影響で投資家たちが慎重な姿勢になったことが窺える一方で、ウィズコロナ時代に成長するサービスなどに対しては積極的な投資姿勢が垣間見えました。2020年7月時点でCOVID-19はまだまだ猛威を振るっている状況ですが、リモートワーク、デリバリー、ゲームなど成長が期待される業界に対してはこれまで以上に投資が活発になることが予想されます。

半年毎の北米投資額推移(crunchable newsから転載)
$100Mを超える投資と$100Mを下回る投資割合(crunchable newsから転載)

2020年Q2の買収金額とディール数は前年度と比較して大きく減少

2020年Q2の買収額合計は$9.7B(約1兆円)となり、ディール数は177件。2019年Q2と比べると買収金額は約55%減少、ディール数は約47%減少となり、企業買収には慎重な動きとなりました。しかし、そのような状況でも世界中が注目をする大型買収がありました。ここでは2020年Q2で買収額が大きかったトップ5の事例を紹介します。

4半期毎の買収金額とディール数(crunchable newsから転載)
  1. Invitae社がArcherDX買収(買収額:$1,400M / 約1,484億円)
    遺伝子解析分野のInvitaeが、固形癌の融合遺伝子を検査するためのキットなどを開発しているArcherDXを買収。癌の遺伝子診断分野の強化を目指します。
  2. AmazonがZoox買収(買収額:$1,300M / 約1,378億円)
    アマゾンが自動運転技術を持つZooxを買収。アマゾンは2019年にも電気自動車スタートアップRivianへ$700M(約742億円)を投資しています。デリバリー領域を含む物流網の自動化に本格的に力を入れ始めていることが窺えます。
  3. SoFiがGalileo Financial Technologies買収(買収額:$1,300M / 約1,378億円)
    コンシューマー向けの金融サービスを提供するSoFiが、企業向けの決済システム基盤を提供するGalileo Financial Technologiesを買収。事業領域を拡大する狙いがあると予想されています。
  4. CiscoがThousandEyesを買収(買収額:$1,000M / 約1,060億円)
    ネットワークベンダー最大手の米Ciscoがネットワーク可視化ソリューションを提供するThousandEyesを買収。同社が持つネットワークの可視化技術をCisco製品に取り入れることで、企業の通信をエンドツーエンドで可視化することができ、問題が起きた際の根本原因の早期発見に繋げます。
  5. Empower RetirementがPersonal Capitalを買収(買収額:$1,000M / 約1,060億円)
    退職金の運用サービスを手がけるEmpower Retirementが個人向け運用資産サービスを提供するPersonal Capitalを買収。EmpowerはPersonal Capitalが持つ970万人の顧客に対して新たにサービスを提供していきたいという狙いがあるようです。
2020年Q2の買収企業一覧(crunchable newsから転載)

COVID-19の時代にIPOをした注目の企業

2020年Q2は経済が厳しい状況となりましたが、そんな中でもIPOを果たした企業がありました。事情は現在と異なりますが、2000年のドットコムバブル時代に創業、そしてその苦境の時代を乗り越えてIPOをしたGoogle(1998年創業、2004年IPO)は今や世界を代表する企業となりました。苦しい時代にその状況を乗り越えて成長をしていく企業は数年後、数十年後に更に大きな成長を遂げている可能性があり、今後の動向に目が離せません。

  1. Zoominfo(営業支援サービス)
    Zoominfoは2000年創業ですでに20年の歴史を持つCRMを提供するSaaS企業です。日本ではまだ知名度は高くありませんが、Salesforceの競合という位置付けになります。ユーザーにはStarbucksやFacebookなどが名を連ねており、顧客数は1.5万人を超えてさらに成長を続けています。ちなみにWeb会議システムを提供するZoomとは名前が似ていますが関係はありません。
  2. Vroom(中古車ECサイト)
    Vroomは中古車に特化したECサイトを提供する企業です。米国は世界最大の中古車市場を持ちますがECでの取引はわずか3%程度。その原因の1つはやはりECでは実物が確認できないという点です。しかしVroomは購入後に7日間の返金保証があるため、ユーザーも安心して購入することができます。COVID-19の影響もあり、Vroomを活用する人は今後も増加していくでしょう。
  3. Legend Biotech(バイオテクノロジー)
    Legend Biotechは新規細胞治療薬の開発を行っている企業です。最先端の治療薬候補を開発し癌患者へ新たな治療薬などを提供することを目指しています。
  4. Agora.io(コミュニケーション)
    Agora.ioはビデオ通信などのコミュニケーション機能を簡単に実装できるSDKを提供する企業です。自社アプリやWebサイトにビデオ通信やライブ配信の機能を実装したい場合、Agora.ioが提供するSDKを組み込むことで、一から開発を必要とせずに簡単に機能を実装することができます。こちらは既に日本でも多くの企業で使われているサービスです。
  5. Vaxcyte(ワクチン)
    世界の健康向上を目指し、一般的で致命的な感染症の予防または治療をするために設計されたワクチンの開発に取り組んでいる企業です。
2020年Q2にIPOをした企業一覧(crunchable newsから転載)

考察

2020年Q2の北米投資動向を見る限り、想定していたよりも投資金額、ディール数は落ち込んでいないということが率直な感想でした。それは、このCOVID-19の影響で大企業からスタートアップまで多くの企業が倒産に追い込まれる一方、リモートワークを始めとした「ニューノーマル」に関連する業種投資が活発になったことが一因です。プロジェクト管理ソフトを提供するAsanaは2020年6月に$200M(約212億円)の大型調達に成功、デジタルホワイトボードを提供するMiroは$50M(約53億円)を調達するなど、リモートワーク系の投資がより活発になりました。そのほか、デリバリーサービス、遠隔医療、ゲームなどCOVID-19時代に活躍が期待されるサービスにはこれまで以上に投資がされていくことでしょう。

また、今回は北米に限定したレポートを分析していきましたが、今後は北米だけに限らず広い視野で動向を追っていく必要があると感じています。日々スタートアップの創業者やメンバーと話をするなかで、本社はベイエリアであるものの実際に活動している場所はイスタンブールなどという話がとても多くなったと感じるためです。今後、リモートワークが中心になるとこのような分散化はますます進むでしょう。

最後までお読みいただきありがとうございました。
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この記事を書いた人

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Shuichi Noto

2008年にユニアデックス入社。5年間の大手通信キャリア向けの営業を経験した後、日商エレクトロニクスへ入社。大手OTTの情報システム部門向けにVDIやWeb会議などの働き方改革を促進するソリューションの販売に従事。2019年よりNissho USAに赴任。お客様のビジネスを共創&サポートできるようなソリューションの発掘を目指し日々活動中。担当領域はITインフラ全般、ヘルスケア業界、地域創生など。趣味はゴルフとサッカー。

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