米国ユーザートレンド 2020.01.18

【Retail’s Big Show & Expo 2020】NikeとPumaの顧客獲得アプローチの違いに学ぶ「New Retail」の鍵とは

Retai's Big Show & Expo 2020

Amazonの登場でもっともインパクトを受けた業界はやはりリテール業界ではないでしょうか。ここ10年でAmazonの売上は2.5兆円($24B)から30兆円($290B)にまで成長しています。ここまでの成長率は若い会社であれば分からなくもありませんが、兆を売り上げる会社では異常といえるでしょう。もちろんAmazonのおかげで我々の日々の生活にオンラインショッピングが当たり前となり、とても便利になりました。

一方、その輝かしい成果の裏で数多くのリテール店舗が倒産しているのも事実です。もちろん、そのような店舗は、Amazon登場による顧客の購買行動の変化についていけなかったからだとも言えますが、その数、昨年2019年だけで約1万店舗におよび、これもまた異常事態と言えるでしょう。

しかし2020年1月12日(日)から1月14日(火)まで米ニューヨークで開催されたRetail’s Big Show & Expo 2020では、リテール業界がさまざまなアイデアやテクノロジーを駆使して「New Retail」へと進化しようとするなかで、あらためてリアル店舗の重要性が提言されていました。このイベントで良く目と耳にしたキーワードは「パーソナライゼーション」と「ロイヤリティ」です。

今回は、最新のテクノロジー統合店舗として紹介された複数社の中から、これらのキーワードをうまく実践しているNikeとPumaについて、実際にニューヨークの5番街にあるフラグシップストアを訪問・体験した経験を交えて、「New Retail」で大事になってくるポイントをご紹介したいと思います。

データドリブンの店舗体験でパーソナライズ化に力を入れるNike

Nike store NYC

(ニューヨーク5番街の交差点をうまく活用し、5Fまで続くNikeフラグシップストア)

Nikeのフラグシップストア「Nike House of Innovation」は、Nikeの専用アプリ「NikePlus」とのシナジーを売りにした店舗です。中に入ってみると壁の至るところに、アプリダウンロードを促すQRコードが張り巡らせられており、アプリを使えば何かいいことがあるのかな?という気持ちになりました。

実際に店舗ではそのアプリを通して次のような体験ができます。

1. 商品に貼付されているバーコードを読み取って商品詳細を確認する。展示されていない色やサイズなど確認ができる。

2. 商品に貼付されているバーコードを読み取って、試着依頼を行うと店員が試着品を持ってきてくれる。実際にアプリを活用して試着体験してみました。

Nike Try On

(商品に貼付されているバーコードをスキャンするとTry-On Listに追加。Request Try Onをクリック。)

Nike Try On

(試着用商品をどちらの場所で試着するかを選択する。)

Nike Try on

(店舗側で試着依頼が受理され、試着用商品が届くのを待つ。)

Nike Try on

(間もなく準備が完了するということでピックアップエリアへ。)

Nike Try on

(店舗の混み具合にもよるが、今回は2-3分で商品が到着。順番が近づいたらアプリが知らせてくれるので店内を散策して待つも良し。返品する場合は店員へ。)

3. アプリでオーダーした商品を店舗内のピックアップエリアで受け取ることができる。

Nike Pickup

(各フロアにピックアップエリアがある。)

4. 店舗内の各フロアに設置されているインスタントチェックアウトレジ(セルフレジ)を活用したスムーズな会計処理ができる。

Nike Checkout

<ピックアップエリアと同じく、各フロアにインスタントチェックアウトレジがある。>

5. アプリ利用者専用の特別商品エリアの商品を購入できる。

Nike VIP

(スペース自体は誰でもはいれるオープンなスペースになっている。)

Nikeはこのアプリを通して、各顧客の体験データを蓄積します。そしてそのデータを基に、その人に合ったリコメンデーションやリワードを提供するNikeサービスにつなげるのです。店舗にとって顧客データは財産であり、マネタイズの源泉といえます。もちろん、オンライン上のデータ取得も大事ですが、実際に店舗に足を運んだお客さまが、体験、行動に移したデータはより顧客の趣味、趣向を追求するうえで説得力があるように感じました。そういう意味では、いま店舗の重要性が改めて提言されていることも合点がいきます。

ちなみに、店舗内でのアプリ体験とは関係ありませんが、店舗の最上階はNike Expert Studioと位置付けられ、「パーソナライゼーション」につながる自分専用のシューズをつくるNike By Youや、店舗内にいるスポーツエキスパートへの相談から最適なNike商品を提案、その後のトレーニングTipsなどをレクチャーしてくれるエリアとして利用されています。

記憶に残るエンターテイメント体験でファンを獲得するPuma

Puma NYC

(Nikeと同様、Pumaも交差点をうまく活用。2F建てのフラグシップストア)

続いて、Nikeのフラグシップストアから徒歩5分圏内に位置するPumaのフラグシップストアをご紹介します。

PumaではNikeとは全く異なった戦略を取っているように思いました。アプリダウンロードを促すような広告が少ないことも1つですが、Pumaの店というよりはアミューズメントパークかと錯覚するような工夫がなされていたからです。私も感激したその工夫は、大人はもちろん、お子さん連れのご家族には最適なのでは?と感じました。

具体的には、店舗内はこのようになっています。

1. バスケットボール商品コーナーに、無料で遊べる最新のバスケットボールTVゲームが設置されている。

2. また、同コーナーに、どこかのスタジアムにあるようなNBA代表選手の手形付きバスケットボールが展示されている。

Puma BB Game

(誰でも自由に無料で遊べる。最新のバスケットボールゲームを体験できる。)

3. サッカー商品コーナーに、実際のサッカーボールとデジタルデイスプレイやカメラを活用し、ドリブルやシュートをすることで、スキルや得点を競うゲームエリアがある。

Puma Soccer game

(店員に体験希望を告げ、利用する。上部のカメラで人の動きを認識させる設計になっている。)

4. レーシングエリアには、本格的なレーシングゲームを体験できるコーナーがある。

Puma Racing Game

(チケットをスマートフォンカメラでスキャンさせ利用申請する。多少のデータ取得はしている模様。)

5. スマートフォンで各所に貼付されているバーコードを読み取ると、スマートフォンごしにARマスコットが登場し楽しませてくれる。

Puma AR

(各商品コーナーにあるバーコードをスキャンするとARを活用したマスコットが登場し、スマホゲームや写真が撮れる。)

6. 店舗内にカフェがある。

Puma Cafe

(残念ながら営業時間外だったが、カフェを設けることでくつろぎの空間を提供する。)

私がPumaで感じたのは、Nikeのようにデータを獲得して販売につなげようという戦略ではなく、シンプルに店舗訪問を楽しんでもらうことでファンを増やして顧客を獲得するような印象を受けました。実は私の店舗滞在時間は圧倒的にPumaの方が長かったです。

Pumaで記憶に残るゲーム体験をした子供が「Pumaは楽しい」というイメージをもったまま大人になり、その子供もまたPumaへ連れていく。その連鎖で長期的な顧客を獲得するストーリーが想像できます。ちなみにNikeと同じく、「パーソナライゼーション」を意識したPumaのカスタマイズ製品をつくるPuma x Youもありました。

Puma x You1

(Tシャツやシューズへの細工は、基本的に10ドルで提供されている。)

Puma x You2

(その場で商品を購入することを前提に提供されている。そのため商品価格+10ドルでサービスが受けられる。持ち込みはMaybe OKとの回答。)

また、“Your Discovery Wall”というスマートミラーもPumaの楽しめるポイントの1つです。商品検索も出来れば、試着用鏡にもなる、困ったら定員さんも呼べる、そんな優れものです。Nikeとは少し違ったテクノロジーで顧客を魅了する工夫を感じました。

Puma Smart wall

(各フィッティングルーム近くにスマートミラーが設置されている。左横にある各アイコンをクリックして利用する。)

「New Retail」では、顧客体験とデータドリブンのバランスが大事

今回2つの店舗を実際に訪問して感じたことは、顧客体験とデータのバランスが大事だということです。

Nikeのようにデータ取得は大事ですし、そのデータを自分たちのビジネスにつなげることは今まで以上に重要になってくることは間違いありません。Retails Big Show & Expo 2020展示コーナーでもデータ活用ツールが数多く出展されていたのは事実です。でも、データ取得を意識しすぎて、顧客がとらねばならないアクションが増えてしまうのは果たしていい体験と言えるのか首を傾げる部分もあります。私自身Nikeアプリ初心者だということもありましたが、操作には少し苦労し、店員に話しかけた方が早いな…と感じてしまった場面もありました。簡単かつユーザーフレンドリーな体験がもう少し必要です。

一方、Pumaの店舗で体験できるようなことは、記憶に残り、楽しいなと感じたものの、顧客の購買行動にどれだけつながっているのかは分かりませんでした。実際、店員に尋ねると「単なるアクティビティだよ」という返答。体験を意識しすぎて、本来の売上につなげる部分へどれだけつながっていくのかは今後追いかけてみる必要がありそうです。私のように滞在時間は長かったのですが、結果的に何も買わないという人もたくさんいそうだなというのが率直な感想です。

そのため、今後求められる「New Retail」は、その体験とデータドリブンのアプローチを絶妙なバランスで確保することこそが求められるのだろうと感じました。そして、一番重要なのは、本当にそのお客様が求めている商品を提供することです。うまく体験とデータドリブンを活用しながら、お客様のニーズにちゃんと応えること、それが何よりも大事なのです。簡単なことではありませんし、リテール業界に限ったことではありませんが、今回2つのフラグシップストア体験からこれまで以上にその大切さを実感しました。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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この記事を書いた人

Nobuyuki Komatsu

この記事を書いた人

Nobuyuki Komatsu

2004年、日商エレクトロニクス入社。JuniperやBrocade、Viptelaなどネットワークを軸としたインフラ製品の事業推進や新規ベンダー立ち上げに関与。2017年10月よりサンノゼ赴任。シリコンバレーで得られる最新の情報を発信しつつ、新たなビジネスモデル開発に向け日々奮闘中。2020年現在の担当領域は、クラウドやフィンテック、インシュアテックなど。バスケットボールとキャンプが趣味。

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