イノベーティブ・スタートアップ 2020.03.05

2019年誕生のインシュアテックユニコーン企業全5社を解剖!急成長の理由とは?~後編~

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今回は2019年に誕生したインシュアテックユニコーン企業(企業価値が10億ドル以上に到達した企業)5社の中から、前編で紹介しきれなかったwefox Group、Hippo Insurance、Lemonadeの3社を取り上げます。

関連ブログ:2019年誕生のインシュアテックユニコーン企業全5社を解剖!急成長の理由とは?~前編~

wefox Group

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<wefox Group社ホームページより引用>

2015年にドイツで設立された同社は、オンライン保険マーケットプレイス(wefox)とオンライン損害保険(One Insurance)の2事業を展開しています。

5社のうち唯一のヨーロッパ企業である同社は、40%未満の保険損害率を誇るヨーロッパ最大のインシュアテック企業であり、ヨーロッパ各国で約50万人のユーザを抱えています。日本のSBIグループと2019年1月にアジア展開を目的としたジョイントベンチャー企業を設立しているので、ご存知の方もいるかもしれません。

wefox Groupの特徴の1つは、wefoxとOne Insuranceの2事業を両立させていること。通常マーケットプレイス保険とは、パートナー保険会社の保険をそのプラットフォームを通して販売するため、自社保険を販売すると競合する恐れがあります。その点、wefox Groupでは、AIやMachine Learningのデータ分析を活用しながら、双方の商品を区別しユーザに提案しています。また、スピーディーなオンライン見積にも対応しています。

もう1つ、個人的におもしろいなと思ったのは、特徴はIoTを活用した保険ビジネスです。例えばジオトリガーモデルを採用したTravel Lightという短期旅行保険サービスを提供しているのですが、これは加入者のスマホによる位置情報をトリガーとして、空港や駅などにいることで旅行かな?とシステムが推察し、それにあった保険商品を提案するというもの。これを応用していくと、例えば、自転車に乗ると対物保険適用がオン、自転車から降りるとその保険がオフになるというように、より現実生活に即したリアルタイムな保険活用ができるようになります。

Hippo Insurance

hippo insurance

<Hippo Insurance社ホームページより引用>

2015年に米カリフォルニア州サンフランシスコで設立された同社は、オンラインで住宅、家財損害保険を提供しています。米国では住宅所有者の約6割が損害保険に加入していないと言われているなか、そこにビジネスチャンスを見出しています。

Hippo Insuranceは、うまく連携パートナーとエコシステムを形成している点が優れています。AIやMachine Learningを活用したデータ分析による高速見積(60秒)は勿論ですが、IoTツールやサービスを提供するNortion社と連携し、スマートホーム保険サービスを提供していること。スマートホーム化することで加入者は割引を得られることもあります。

また、彼らが買収したホームメンテナンス企業であるSheltrのサービスを活用し、住宅や家財のプロフェッショナルによる定期的な物理メンテナンスサービスを提供することで将来の損害予防につなげています。これはオンラインでは実現できません。さらには販売チャネルとして米ケーブル大手コムキャストのスマートホームソリューションに自社サービスを組み込んでもらっていることもうまくパートナーを巻き込んでいるなと感じました。

NPSが76ポイントと業界平均の3倍にもなっていることは彼らのユーザがいかにサービスに満足していることを表しています。詳しくは以下関連ブログをご覧ください。

関連ブログ:【Money20/20 2019 レポート】米著名ベンチャーキャピタルが投資し損ねたユニコーン「Hippo Insurance」の魅力とは

Lemonade

Lemonade

<Lemonade社ホームページより引用>

2015年に米ニューヨークで設立された同社は、Hippoと同じくオンラインで住宅、家財保険を提供しています。他の4社と比較し、圧倒的にメディア露出度が高いので、日本の皆さんにもお馴染みかもしれません。米インシュアテック企業としては珍しく、国内のみならずヨーロッパ進出を既に果たしておりグローバル企業になっていることでも有名です。

Lemonadeも、やはりAIやMachine Learningを活用しています。ユーザの保険申請はわずか90秒、保険加入まで数分というスピードはその特徴の1つですが、実は他とは違った工夫でユーザを獲得していることが注目の理由です。それはP2P保険という仕組みで、加入者同士でコミュニティを構成し、加入者to加入者(ピアツーピア)で保険金運用を行うというものです。

Lemonadeではユーザから支払われた保険金のうち自社の取り分を20%に固定しています。つまり、保険会社は残りの80%の中でそのコミュニティで発生する保険金請求に対処するのです。コミュニティ意識を加入者が共有していることから詐欺行為防止にも繋がっているようです。

また、保険金請求、支払いを巡っては加入者と保険会社間で利益相反問題が起こりがちですが、Lemonadeは加入者からの保険金請求がなされなかった場合、残りをNPOに寄付するというアイデアを取り入れています。各加入者は加入時に自分の好きな寄付先を選択するのですが、同じ寄付先を選んだ加入者同士が同一コミュニティに入るという仕組みで運営されています。問題になりがちな資金の流れを透明化し、コミュニティ意識を助長する施策をとったことで世間で広く受け入れられる存在になったのです。

テクノロジーはそこそこ。重要なのは、タイミングと顧客第一主義につながる新たなアイデア

なぜ彼らがユニコーンになったのか。

今回5社を調査して得られた率直な感想は、やはりテクノロジーだけではないなということです。勿論、AIやMachine Learningテクノロジーを5社が5社とも活用し、うまくデータビジネスに着手できていることは理由の1つです。これまでの保険ビジネスにおいて、加入者、提供者ともに膨大な時間や手間のかかっていた商品検索、見積、加入までの手続き、加入後のクレーム申請などは劇的に改善され、AIやMachine Learningによる保険ビジネスの1つのユースケースとして立証されていると思います。ただし、テクノロジーは必ず追いつかれますし、上書きされていきます。AIやMachine Learningのように発展途上のテクノロジーであれば尚更でしょう。

では、ポイントは何だったのでしょうか。

2点挙げたいと思います。

1つ目は保険を取り巻く課題が顕在化していたことです。まず健康保険については、オバマ大統領時代に始まったオバマケア(Affordable Care Act)の課題が見えてきていました。手頃な価格で健康保険に入れるというメリットがある一方で、オバマケア「ネットワーク」に加入する医療機関が近所にないことで結局十分に医療サービスを受けれられないというケースが出てきていたのです。また損害保険については、ここ数年ゲリラ的に発生する自然災害に世界中が悩まされ、損害保険会社が年間数兆円規模の損害額を何度もたたき出しています。解決すべき課題が見えていた、また解決すべきタイミングにうまく合致したからこそ急成長していることにつながっていると思います。

関連ブログ:【InsureTech Connect 2019】参加者必読!直前に注目すべきインシュアテックスタートアップ3選

2つ目は細かな顧客像分析と顧客体験向上につながる、特異なアイデアを取り入れたことです。新しいビジネスモデルと言ってもいいかもしれませんが、各社テクノロジー以外の特徴的な施策を取り入れているのはお分かり頂けたと思います。

例えば、Bright HealthやNext Insuranceは加入者に寄り添うローカライズの仕組みを取り入れました。前編で触れましたが、彼らのサービスは、街や市、もしくは職種によって個別に保険商品を何千通りも用意することを意味します。これは普通に考えても気の遠くなるような作業です。AIやMachine Learningなどテクノロジーをうまく活用しているからこそとも言えますが、これまでの保険会社が限られた商品でマクロ的に顧客をカバーしていたことと異なり、顧客一人一人がもっている小さな課題に目を向け、ミクロの世界で通用する新たなサービスを考えました。

他の3社も同様です。wefoxが取り入れた相反する事業共存や位置情報を活用したリアルタイムな保険提案は、一見競合しそうな自社製品と他社製品を同時に取り扱うことで細かくポートフォリオを整備し、個々の顧客課題に応えていますし、HippoのパートナーエコシステムやLemonadeのP2P保険や寄付の仕組みも、かゆいところに手が届く、そんなサービスに思えます。

つまり、全てが従来の保険にはなかったアイデアやビジネスモデルですが、根底にあるのは顧客第一主義という考え方です。さらに言うとそのアイデアやビジネスモデルをスタートアップならではの機動力をいかして早期に実行できたのもポイントです。おもしろいアイデアは、意外と企業それぞれ持っているものですが、実際にその成功を信じて実行できる、しかもスピーディに実行できる企業はごくわずかなように思います。

最後までお読み頂きありがとうございます。

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この記事を書いた人

この記事を書いた人

Nobuyuki Komatsu

2004年、日商エレクトロニクス入社。JuniperやBrocade、Viptelaなどネットワークを軸としたインフラ製品の事業推進や新規ベンダー立ち上げに関与。2017年10月よりサンノゼ赴任。シリコンバレーで得られる最新の情報を発信しつつ、新たなビジネスモデル開発に向け日々奮闘中。2020年現在の担当領域は、クラウドやフィンテック、インシュアテックなど。バスケットボールとキャンプが趣味。

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